精神医学 講義用メモ
統合失調症
妄想、幻聴 自己不全感と恐怖
脳の働き(考え、気持ち、意欲行動)がまとまらなくなる。
急性期には、本人の訴える幻聴や妄想を否定しない。「私たちにはわからないが、あなたにはそう聞こえるし、思えるのですね」「医療者は味方、あなたは安心して休んでいい」
回復期以降は、疾患教育として例えば、対人関係で被害的になりやすいくせを修正したり、嫌なことをうまく断ったりするための心理療法等も行っていく。服薬は必要だが、手が震えるなどのパーキンソン症状が出たら、医師に減薬をお願いしたり(対人関係のスキルが重要)、薬の副作用で太ったり、生活習慣病になることも留意。
双極症(躁うつ病)
躁うつ病(エネルギーの無駄遣い)とうつ病(エネルギーが枯渇)は異なる疾患です。躁うつ病ではエネルギーの配分をコントロールできないのに対して、うつ病はそもそも使うエネルギーがない状態。
躁の誇大妄想 苛々しながら逸脱行為があり、時に生命の危険があります。
うつの罪業妄想 趣味も楽しめない。生きることに飽きて退屈。自殺念慮。
知覚の障害
幻聴と幻視が大切です。幻聴は統合失調症で多いですが、重症のうつ病や躁うつ病でも認めます。幻聴の命令にしたがって行動してしまう。つまり幻聴は受身的な体験です(何かに影響を受ける体験→自我意識の障害でもあります)。 一方で幻視は能動的なものが多いです。主な原因は中毒性、症状性、器質性精神疾患です。例えば、違法薬物による中毒、アルコール離脱せん妄(震戦せん妄)、レビー小体型認知症です。
思考過程の異常
躁うつ病の観念奔逸と統合失調症の滅裂思考の区別が重要です。観念奔逸は常識で理解しやすい論理の飛躍ですが、滅裂思考は、考えが全くまとまっておらず、話題の相互関連性がなく本人にしか通じません。
思考内容の異常
うつ病や躁うつ病(双極症)などで認める妄想は、理由が推測しやすいので二次妄想と呼ばれます。認知症で多い嫉妬妄想は、身体の衰え(歩けない、目が見えない)から配偶者の浮気を疑うといった理解しやすい二次妄想です。
統合失調症においては、何の理由もなく妄想が生じるため一次妄想と呼ばれます。何の前触れもなく「自分は宇宙人から地球を救う使命を受けた」と感じるなど、本人以外には理由が理解できません。
思考体験の異常
強迫観念とは、無駄と分かっていても考えずにはいられないこと(何回でも手を洗いたい)で、強迫行為とは、実際に何百回と手を洗ってしまうことです。無駄だと分かっていてもやめられません。強迫症だけでなく、統合失調症、自閉スペクトラム症でも起こることがあります。
自分の行動をコントロールできず、誰かに操られていると思う体験(させられ体験)には以下があります。①させられ思考は、自分の主体性が損なわれ、外部の何かに操られていると感じる状態です。②思考奪取は「自分の考えが抜き取られて無くなった」という体験。思考吹入は「外から考えを吹き込まれる」こと、③思考伝播は「自分の考えが周囲に漏れ伝わってしまう」こと。これらは自我意識の障害でもあります。統合失調症で生じます。
意欲・行動の障害
躁病性興奮は躁うつ病の観念奔逸から生じ、緊張病性興奮(精神運動興奮)は統合失調症の滅裂思考から起こります。考えがまとまらない程度があまりに酷いと、逆に全く動けなくなり、(緊張病性)昏迷に陥ります。重度のうつ病で、何も考えられないほど意欲が無くなっても、昏迷になります。
抑うつ症(うつ病)
重症度の評価 → 自責感から自殺念慮へ 不安症、 身体症状症の合併
治療導入時の心理療法的配慮
うつ病とは何かを伝える(疾患教育 なまけではなく脳の病気)
睡眠の確保、脳の休息。周囲のサポートを得て一人で考えない。別の視点を導入。
(追い詰められて「死にたい」、「消えたい」以外の選択肢が頭に浮かぶように)
症状は一進一退、波がある。自殺禁止。重大な決定(転職、離婚など)は先送り。
不安症
パニック症 ー 過呼吸(喘息との鑑別)、胸苦(狭心症との鑑別)
社交不安症 ― 対人恐怖
全般不安症 ― 過覚醒、過度の筋緊張→複雑性PTSDが隠れていることも。
感情の障害
不安発作(不安症、特にパニック症)や、抑うつ気分(うつ病)、爽快気分(双極性障害、躁うつ病)が大切です。躁うつ病の爽快気分とは気分がハイになっていますが、必ずしも楽しいわけではなく、刺激に反応しやすく(易刺激性)、苛々した状態です。
うつ病や不安症などの発症プロセスには、自律神経(自分の意志とは関係なく生命維持のため働く神経)の異常が関与しています。自律神経には運動時に主に働く交感神経と、休息時(リラックスしている時)に働く副交感神経があります。過度のストレスによる交感神経の亢進から、イライラや緊張が続き、抑うつや不安が慢性化していきます。
強迫症
無駄だと分かっていてもやめられない 不安を伴わないこともある。病識がない場合もある チック症との類似
解離症 苦痛を感じないために、心のある部分を切り離す
身体症状症 胃が痛くて精神的にもつらい
病気不安症 胃が痛くならないか考えすぎて精神的につらい
変換症 解離によって身体症状が起きる
自我意識の障害
外界と自分、意識と無意識の区別がなくなってしまいます。前述のさせられ体験や、苦痛を感じないために、苦痛を感じているこころの部分を切り離す解離症は自我意識の障害です。解離症はひどくなると記憶喪失や二重人格を引き起こします。
記憶障害、見当識障害がしだいに進行していくのが認知症、急激に起こって原因が取り除かれたら治るのがせん妄。最初から知能が低いのが知的障害です。時間経過による症状の変化に留意。
せん妄
基礎疾患の治療を優先する。適切な睡眠、適切な薬剤の投与(不要な薬剤の中止)
認知症
アルツハイマー型が6割だが、次いで脳血管性、レビー小体病(幻視、パーキンソン症状がある)、前頭側頭型(性格変化がみられる)が多い。
高齢者のうつ病でも見かけ上の記憶障害が起こります。認知症との鑑別が必要。
うつ病では、自信がないため、分かる質問にも「わかりません」と答えがちですが、認知症の場合は、わからないことを誤魔化そうとして作話をする(でたらめな答を自信満々で答える)場合があります。
意識障害
単純に意識がなくなることを昏睡。対して昏迷とは、意識はあり、意識障害ではないが、目を開けず体も動かさない状態(意欲の障害)。
一方で、複雑な意識障害もあります。錯覚や幻覚を伴うものでせん妄と呼ばれます。たちの悪い寝ぼけや夢遊病のようなものです。術後せん妄のように環境の変化も相まって起こるものや、入院中の認知症高齢者に多い夜間せん妄は頻繁に遭遇します。
アルコール多飲者が入院して急にお酒を断った後に数日してから起こる震戦せん妄はお酒の離脱症状(飲酒中には起こらない)
摂食障害
ボディイメージの障害 拒食症と過食症は交互に繰り返すことが多い。
幼児期の環境要因(虐待など家族関係の問題)が先行因子として重要。
持続因子として、家族の心配、高い感情表出(親の高い期待、ないし叱責)
拒食症では、やせ(るいそう)、無月経、除脈、低血圧。
栄養不足による浮腫(むくみ)、腎機能障害、肝機能障害
過食嘔吐の繰り返し、下剤の乱用があれば、電解質異常(低カリウム血症)から不整脈。
精神面でも頑固さ、融通の利かなさ、抑うつ、不安、こだわり(強迫症状)が出現
治療 患者の不安を受け入れ、太ることへの恐怖感を傾聴。あたたかく忍耐強い態度、一貫性のある態度で接する。
依存症(物質使用、嗜癖)
アルコール、薬物、ギャンブル、ネット依存、買い物依存、窃盗癖
暴力、虐待、性的逸脱行動、摂食障害も依存、嗜癖の側面があります。
アッパー系 覚せい剤、コカイン、ニコチン、カフェイン
脳の働きを活性化→切れると神経過敏になり不安、妄想も
ダウナー系 モルヒネ、ヘロイン、アルコール、睡眠薬
脳の働きを抑え不安を和らげる→切れるとけいれん、幻覚も
サイケ系 大麻、MDMA、LSD
アルコール依存症の死因としては、飲酒して転倒を繰り返すことによる慢性硬膜下血腫。アルコール性肝硬変から、食道静脈瘤の破裂による出血性ショックが重要。
治療法としては、自助グループへの参加を促します。断酒会、AA、ダルクなど。病院に当事者会、アルコール専門のデイケアも。