「今ここ」と身体への気づき―フラッシュバック対処法としてのマインドフルネス、ボディ・コネクト・セラピー、スキーマ療法の初歩
1.トラウマ臨床における基本的な考え方
1-1.フラッシュバックとは
フラッシュバックとは、過去に起きた出来事が「過去の記憶」としてではなく、現在まさに起きている出来事のように感じられること。
そのため、フラッシュバックへの対応では、
「過去は過去、今は今」
という区別を取り戻し、今ここに意識を向け、安全に気づくことが重要になる。
これは、過去の記憶を無理に消したり、考えないようにしたりすることとは異なる。
「これは過去に起きたことだ」と認識しながら、現在の身体、周囲の環境、今していることに注意を戻していく。
イメージとしては
通り過ぎる景色(過去のできごと)を列車の中から眺めているだけ
様々な気分を大波、小波に見立て、波が立っても必ず消えて海に戻っていくと感じ続ける。
川を流れる葉っぱのイメージ(葉っぱに嫌なこと、苦痛なことを乗せて流す)
タンポポの繊毛(あるいはシャボン玉)をそっと吹く。遠くへ飛ばす。
以上のイメージでは間に合わない、処理しきれない場合は
感情を巨大なうんことみなし、レバーを押して便器に流す。
過去を消そうとするのではなく、過去と現在との距離を取り戻すのである。
1-2.治療者がどのようにそこにいるか
技法そのものだけでなく、治療者がどのようにそこにいるかが重要である。
まず、「私はあなたと一緒にいる」と伝える。
そして、「あなたのせいではない」ということを伝える。
治療者も一緒に悲しみ、必要であれば代わりに怒る。
患者の感情を共有し、安心感を育てる。
トラウマ治療では、患者が一人で自分を調整できるようにすることだけを目指すのではなく、まず治療者との関係の中で共同調整(co-regulation)を経験できることも重要である。
1-3.「マシなところ」に注意を向ける
トラウマ反応が強いときには、注意が苦痛の方向に強く引きつけられる。
そのため、必ずしも苦痛の強い部分に注意を向け続ける必要はないと考える。
むしろ、
「今、自分の中で少しマシなところはどこか」
に意識を向け、そこにとどまることが役に立つ。
例えば、
少し楽な身体の部分 落ち着く感覚
安心できる場所 好きなもの 支えてくれる人
今ここにある安全な環境
などである。
重要なのは、「悪いところを見ないようにする」のではなく、注意を、安全なものへ主体的に移すことである。
ポリヴェーガル理論など、自律神経と安全感・防衛反応との関連についての考え方を知ることも、臨床上の一つの枠組みになる。
日頃から、「今、自分の身体はどのような状態なのか」を観察する。
例えば、緊張している、身体が固まっている、呼吸が浅い、落ち着いている、人とつながっている感じがするなど、自分の状態を観察する。
1-4.グルグル思考への対応
過去のことや将来の不安について頭の中で考えが循環し、どうにもならなくなったときには、まず身体の緊張をゆるめる。
そして、
「今できることと、今できないことを分ける」
という姿勢を持つ。
現実を受け入れ、あえて「何もしない」ことも一つの選択になる。
ここでいう「何もしない」は、あきらめて投げ出すという意味ではない。
「今はこれ以上どうにもできない。まあ、いいか」
と、いったん手放す。
つまり、良い意味であきらめる、OKにすることである。
一方で、自分の意思で主体的に、すぐできる建設的なことをするのも有効である。
例えば、
歯を磨く 爪を切るなど、身の回りのことをする
家事をする 部屋を片づける
などである。
これは、過去や不安について考え続ける状態から、現在の自分が実際に行える具体的な行動へ注意を戻すことでもある。
2.「今ここ」の心と身体に意識を向ける
2-1.呼吸
まず、現在の身体に注意を向ける。浅く腰掛け、両足を床につける。
「大地に支えられている」という感覚を意識する。
肩の力を抜き、胸を広げる。
肩を上に持ち上げてから落として、姿勢をリセット(筋弛緩法)。
「今は過去ではない、未来への不安について考え続けるのでもなく、今ここで実際に起きている身体感覚に注意を向ける。
鼻や口から息を吸って、肺に入っていく通り道を感じる。
吸った時間の約2倍の時間をかけて、ゆっくり吐いていく。
ただし、呼吸に注意を向けることでかえって苦しくなる人もいる。その場合は、無理に呼吸へ集中せず、足裏や周囲の視覚情報など、別の感覚に注意を向ける。
2-2.タッピング
身体に穏やかな刺激を与えることで、現在の身体感覚へ注意を戻す。
例えば、
合谷(ごうこく:手の甲の親指と人差し指の骨が交わるあたり、人差し指側)
足三里(膝の外側の骨の下方、四横指程度下)
などを軽くタッピングする。
これらの部位そのものに特別な治療効果があるというより、身体への刺激を利用して、注意を「今ここ」に戻す方法として用いる。
2-3.解離が強い場合には
名前を呼ぶ。穏やかな声で、しかしはっきりと呼びかける。
身体には不用意に触れない。
必要に応じて、意識を眼前の現実へ戻す。
例えば、ハンカチキャッチ、柔らかいボールでのキャッチボールなどを利用する。
そして、「私がいるのがわかりますか」「ここはどこですか」「今、何歳ですか」
などと問いかけ、過去と現在を区別する。
3.リソース――安全や安心につながるものを思い出す
苦痛だけではなく、自分が持っているリソース(資源)にも注意を向ける。
「自分の心をひとりぼっちにしない」
例えば、
美しい景色、自然に包まれて寝そべっているイメージ
思い出の品、ペット、支えになってくれる人
安心できる場所、好きなキャラクター、有名人(推し)
などである。自助グループや公的資源も。
リソースは、危険行動に対してブレーキをかけるものにもなる。
「自分には何もない」と感じるときにも、過去に少しでも安心した経験、好きだったもの、身体が少し楽になった場所などを探していく。
紙の中心に自分、その周りに応援団(リソース)を書き出していく。
4.コンテナワーク――苦痛をいったん外側に置く
4-1.コンテナワーク
コンテナワークでは、身体感覚に注意を向けながら、現在気がかりになっていることやストレスをイメージの中で外側に取り出す。
そして、それを、布、箱、コンテナなどに包み込んで大切に保管する。
これは問題を「なかったこと」にするのではない。
今すぐ扱わなくてもよいものを、いったん安全な場所に置いて、現在の自分との距離をつくる方法である。
4-2.フラッシュバックと距離を置く
フラッシュバックを、真正面にある自分の身体のすぐ近くに置いているようにイメージする。そして、それを少し離れた場所へ移すように動作で示す。
そのうえで、「少し離して眺めることはできますか」と尋ねる。さらに、「そうしてみると、少しマシですか」と話し合う。
目標は、フラッシュバックを消すことではなく、「フラッシュバック=自分そのもの」ではないという距離をつくることである。
4-3.有能な保護者のイメージ
応用として、心の中の虐待者のイメージを凍りつかせ、安全な距離まで離す。
そこへ、有能な保護者に来てもらう。その安全な状況の中で、何をしてみたいか 何を言いたいかをイメージする。
これは、過去の出来事を変更するというより、当時にはなかった安全・保護・主体性をイメージの中で補う作業として考えることができる。
5.グラウンディング――外の世界とつながる
グラウンディングとは、注意を内側の苦痛や記憶だけに集中させず、現在の身体と外界との接触を取り戻すことである。
5-1.足裏と地面を感じる
足の裏を意識する。
地面に向かって根が伸びていき、自分をしっかり支えているようにイメージする。
座っている場合には、
椅子に身体が支えられている感覚 足が床についている感覚
を感じる。
足をそっと踏みならしてもよい。踏み込みながら歩く。
歩きながら、「今、右足が床についている」「左足が動いている」
など、足の感覚に意識を向け、言語化する。
同時に、その場で見えるもの、聞こえる音などにも注意を向ける。
5-2.身体の重さを感じる
自分の身体の重さを感じる。
椅子に座っているなら、
「椅子が自分の身体を支えている」
という感覚に注意を向ける。
5-3.5-4-3-2-1法
周囲の感覚情報を具体的に数える。
見えるものを5つ
聞こえる音を4つ
触れているものを3つ
好きな匂いを2つ
味を1つ
探し、それぞれを言葉にしていく。
これは、過去の記憶に引き込まれている注意を、現在の環境に戻す方法である。
5-4.五感を利用する
水を口に含み、味、温度、喉を通っていく感覚に注意を向ける。
水が身体の中を移動していく感覚を追っていく。
同様に、ガムの味や食感、気に入った香り、アロマなどに注意を向けてもよい。
手に刺激を与えるものを握る。
やわらかいものやふわふわしたものをなでる。
指で服の布地を触り、毛玉を探す。
土いじりをする、といった単純作業をする。
肌で風を感じる。風で揺れるカーテンを見る。くるまってもよい。
太陽の日差しを背中で感じながら、自然の音に耳を澄ませる。
このように、身体と環境との具体的な接触を利用して現在に戻る。
6.センタリング――自分の中心に戻る
センタリングでは、身体の中心部、特に体幹に意識を向ける。
6-1.体の中心をイメージ
東洋医学では、臍の下に指三本程度の位置を「丹田」と呼び、身体のエネルギーの中心として捉える考え方がある。
ここでは丹田を、身体の中心を感じるためのイメージとして利用する。
呼吸に伴う身体の動きを感じながら、お腹がふくらむ お腹がへこむという感覚に注意を向ける。
空気の通り道に注意を持続させる。
また、姿勢、バランス、身体の中心軸 を感じる。
膝を曲げ伸ばししながら、身体の中心に意識を向ける。
6-2.安全な場所と肯定的な身体感覚
自分が安心できる言葉をいくつか用意する(アファメーション)。例えば、「安全です」「大丈夫です」など、落ち着く言葉、安心できる言葉を選び、それを声に出す。また、否定的な言葉を、より現実的で自分を支える言葉に変換する。
重要なのは、現実とかけ離れた「ポジティブ思考」を押しつけることではなく、本当に少し安心できる言葉を見つけることである。
「もっと自由な心を持とう」「のびのび生きていこう」「もっと楽しんでいいんだ」「私には幸せに生きる権利がある」
安全な場所をイメージする。実際に個室(トイレなど)にこもる。さらに、好きなことについて話しながら、そのときの気分や身体に感じることを言葉にする。その感覚を味わう。
例えば、寝るときに、「今日もお布団にたどり着きました」と自分に言う。毛布にくるまって丸くなってもよい(胎児のポーズ)。
これは、現在の自分が安全な場所にいること、今日一日を終えたことを身体的にも確認する方法になる。
7.セトリング――身体を安定させる
セトリングでは、興奮を落ち着かせ、現在の身体に戻ってくる。
7-1.自分を抱きしめる
自分を抱きしめる動作を繰り返す。励ましながら、身体を優しくなでる。いわゆるバタフライハグ。自分の内なる子どもを抱きしめるように。
安全な感覚から、つらかった自分へつながるようにする。例えば、ぬいぐるみやクッションを抱きしめる。タッピングをして安全な感覚を思い出す。
少しましになったところで、今度はそのぬいぐるみを、一番しんどかったときの自分に見立てる。そして、その自分をなだめる。最近あった良かったこと、嬉しかったことなどを話し、そのときに身体に生じる感覚を味わう。
つまり、安全な感覚 → 少し苦痛のある感覚というように、いきなり強いトラウマ記憶へ飛び込むのではなく、現在の安全を足場にして、自分の苦痛へ近づいていく。
7-2.ボディスキャン
自分の身体を順番に触りながら確認する。なでたり、さすったりする。
それぞれの身体部位について、「今、ここはどう感じるか」
を確認し、身体で感じることを言葉にする。
トラウマを経験した子どもや若者の場合、身体イメージが過去の年齢のままになっていることがある。そのため、「大人になった自分の身体は、あの頃より大きくなっている」と現在の身体を確認することもできる。
おでこや後頭部から後頸部に手を当てる。
お腹や腎臓のあたりに手を当てる。
気を送るとイメージしたりして、温かい手で体を触れて、自分の身体に注意を向ける。
7-3.プッシング
腕で壁を押す。同時に、「ストップ!」と言う。
嫌なイメージを手で押し出すように動作する。
これは、身体を使って、「嫌だ」「ここから先には入らないで」「止める」
という主体的な感覚を取り戻す方法として用いることができる。
7-4.楽しい動き
ふりふりダンス
スワイショウのように腰をひねり、数を数えながら手足をゆする。
身体をリズミカルに動かすことで、注意を身体へ戻す。
びっくり箱ジャンプ
しゃがんで3つ数え、ジャンプする。
爆発しそうな気持ちを、身体を動かすことで外へ出すイメージを持つ。
他に、声を出して笑う、顔をクシャッとする。好きな曲をでたらめな「宇宙語」にして歌いながら、ヘンテコに踊るなど。
すべてを深刻に扱う必要はない。遊びやユーモアを利用して、身体を自由に動かすことも、現在の身体とのつながりを取り戻す方法になる。
8.感情と付き合う――自分の中の自分とつながる
8-1.痛みの意味
身体症状や痛みを単に「消すべき症状」として扱うのではなく、
「この身体感覚は、自分に何を伝えようとしているのだろう」と問いかける。
例えば、「この痛みは私に何を伝えようとしてくれているのか」「この痛みは私をどこへ導こうとしているのか」と考える。
ただし、ここでは身体症状に必ず特定の心理的意味があると決めつけるのではなく、身体感覚に注意を向け、自分の状態を丁寧に理解するための問いとして用いる。
8-2.身体感覚を言葉にする
「右手が熱い」「右手が重い」など、身体感覚を具体的に言葉にする。
その際には、足先の感じなど、身体全体の感じに注意を促し、言葉にしてもらう。痛みに対してその形、色、匂い、感触などを言語化。
これは、曖昧で圧倒的だった身体感覚を、「観察できるもの」へ変えていく作業でもある。
「頭が痛い」という感覚に気づき、そのまま受け止める。 頓用薬を飲む回数が減るかもしれない。
8-3.距離をとる
フラッシュバックや強い感情が出てきたとき、「ネガティヴな思考が浮かんだね!」、「フラッシュバックさんが出てきたね」と、頭の中でテロップを流すように捉える。そして、「今、私は大丈夫なので安心してね」と声をかける。
「もうダメだ」→「もうダメだ、と思った」「けど、きっと大丈夫」
「なんだか心配」→「なんだか心配、を感じる」「けど、もう大丈夫」
とつけることで感情に気づき、客観的になる。
ぬいぐるみやパペットを使って再現してみる方法もある。
身体の外側に表現することで、少し距離をとることができる。
8-4.身体の痛みに語りかける
身体の痛みを感じる部分、例えば胸やお腹に手を当てる。そこに「内なるチャイルド」がいると考える。できれば名前をつけて、名を呼ぶ。
「ごめんね」「ゆるしてね」「ありがとう」「あいしているよ」と伝える。
「内なるチャイルド」を抱きしめて守る。
ホ・オポノポノの言葉を用いる。例えば、「素直な思いに気づいてあげられなくてごめんね」「消そう、忘れよう、押し殺そうとする私をゆるしてね」「いつも傷つくことから守ろうとしてくれてありがとう」「これからもずっと、あなたのことをあいしているよ」と語りかける。
ここでも、これらの言葉を治療効果を持つ呪文として扱うのではなく、自分自身の苦痛や防衛反応に対する思いやりのある態度を育てる言葉として利用する。
9.思考・身体・行動の実況中継――ジャーナリング
トラウマ反応が強くなると、意識が内側の記憶や不安に閉じ込められることがある。
その場合には、実況中継のように、「今、自分は何を感じているか」「今、何をしているか」
を言葉にする。
9-1.目を開けて外側へ注意を向ける
目を開ける。まばたきをする。「今ここ」を感じる。
内側の不安から意識を外側へ向ける。周囲を見回し、危険がないことを確認する。
視点をあちこちに移動させる。例えば、部屋の天井の隅を左右交互に見る。これは注意を現在の環境へ切り替える方法である。
9-2.違いチェックとオリエンテーション
声に出して、「今は安全」と言う。
そして、今日の日付、今いる場所、誰と一緒にいるか、今何をしているか、今は何時頃かなどを言葉にする。
つまり、時間・場所・人物について現在を確認するオリエンテーションを行う。
手をパンと叩き、「これで終わり!」と言う方法もある。
9-3.周囲のものを実況する
声に出して、今の気持ちや身体に感じるものを話す。
身の回りにあるものを描写する。
例えば、見えるもの、聞こえるもの、触れているものを順番に挙げていく。
キョロキョロしながら部屋の物を探す。
例えば、部屋にある丸いものを3つ探す。四角や三角でもよい。
また、着ている服や持ち物から、名前と色を10個言う。といった課題もできる。
9-4.現在の行動を言葉にする
現在を思い出すための視覚的な手がかりを身につけておく。
今見ているスマートフォンに何が映っているのかを説明する。
今読んでいる文字を読み上げる。
これから今日どんなスケジュールなのかを具体的に話す。
また、現在を思い出すための工夫として、スマートフォンの待ち受け、メモ帳、ポストイット、アクセサリーなどを利用する。好きなものを数え上げることもよい。
10.フラッシュバックを客観化する
10-1.フラッシュバックを早期に認識する
感覚を数値に置き換えて客観化する。
例えば、「今の苦しさは0~10で何点ですか」と尋ねる。
そのうえで、「少しでもマシになった感じはありますか」と確認する。
「完全に良くなったか」だけではなく、少しでも変化したことを一緒に確認することが重要である。
また、会話の途中で、表情が急に変わる、姿勢が変わる、声の調子が変わる、視線が変化するなどの変化を感じたときには、フラッシュバックを認識する。
例えば、
「今、急に何かが変わりましたね。気づきましたか」
「この感じは初めてですか」
「あの出来事が起きているように感じますか」
「大丈夫。それは昔の記憶がフラッシュバックしているのかもしれません」
と確認する。
そして、「脳が刺激されているだけで、今この場で同じことが起きているわけではありません」と現在に戻す。
10-2.出来事の「終わり」を思い出す
トラウマ記憶では、出来事の恐怖が現在まで続いているように感じられることがある。
そのため、「大丈夫だと思えた時のことを思い出してみましょう」と問いかけ、出来事の終わりや、その後に安全になったことを思い出す。
これは、記憶の中の「危険が現在も続いている」という感覚に対して、「その出来事には終わりがあった」という現在からの情報を加える作業でもある。
10-3.「危険を知らせる機能」としての症状を理解する
「ヤバい」と感じることそのものを、単なる邪魔な症状として扱わない。それは、自分を守ろうとする機能でもある。
そのため、「その警報をなくしてしまう必要はないよね。自分を守ってくれているものだから。ただ、アラートが鳴りすぎて、やりたいことまでできなくなるのは損だものね。ちょうどよく鳴らしてくれるようにできないか、いろいろ試してみよう」というように話す。
つまり目標は、「警戒心をゼロにすること」ではなく、「必要なときに適切に警報が鳴る状態」を目指すことである。
10-4.「考えないようにする」
フラッシュバックを「考えないようにする」だけでは、かえってそのことへのとらわれが強くなることがある。
例えば、
「シロクマを一度思い浮かべ、その後5秒間、1回もシロクマを思い浮かべないようにしてください」
と言われると、むしろシロクマが頭に浮かんでくる。
これは、考えないようにするために、逆にその対象を監視し続けることになるためである。
フラッシュバックも同様に、
「考えないようにしよう」
とするだけでは、とらわれが強くなることがある。
そこで、むしろ自分から主体的に考えたり、現在の身体や環境に注意を向けたりする。
そうすると、いつの間にかどうでもよくなり、忘れていくことも。
10-5.「これはフラッシュバック」と認識する
フラッシュバックが起きたら、「これはフラッシュバックだ」と名前をつける。
そして現在の状況を確認する。「今は違う」と唱える。
過去の出来事が、現在、脳を介して再び起きているだけである。
今感じている身体感覚も、過去の危険に反応して生じている身体感覚である可能性がある。
そのうえで、立ち上がる、歩く、手を動かす、周囲を見る、物を触るなど、何らかの動きをして、そこに集中する。
まとめ
以上の技法の根底にある考え方は一貫している。
① 現在に戻る
「これは過去。今は今」
時間・場所・周囲の環境を確認し、現在の状況を思い出す。
② 身体に気づく
足裏、呼吸、姿勢、身体の重さなど、今ここで起きている身体感覚に注意を向ける。
③ 安全なものに注意を向ける
リソースを見つけ、「少しマシ」なところや安心できるものに注意を向ける。
④ 身体を安定させる
呼吸、タッピング、グラウンディング、センタリング、セトリング、プッシング、バタフライハグなどを用いて、身体を現在に戻す。
⑤ 苦痛と距離をつくる
コンテナワークや「フラッシュバックさん」といった捉え方を用いて、苦痛と自分との間にわずかな距離をつくる。
⑥ 身体感覚を観察し、言葉にする
「右手が熱い」「胸が重い」など、身体で起きていることを具体的に感じ、言葉にする。
⑦ 主体性を取り戻す
「止める」「離れる」「動く」「選ぶ」「今できることをする」といった感覚を取り戻す。
⑧ 他者との共同調整を経験する
治療者が一緒にいて、
「あなたのせいではない」「今はここにいる」「一緒に確認していこう」
という関係をつくる。
このように、マインドフルネス、身体へのアプローチは、単に「リラックスするための方法」ではない。
トラウマによって失われやすい、
「これは過去である」
「私は今ここにいる」
「私は自分の身体を感じられる」
「私は危険を判断できる」
「私は自分で動くことができる」
「私は嫌なものを止めることができる」
「私は自分自身とつながることができる」
といった感覚を、少しずつ取り戻していくための方法として位置づけることができる。
参考文献
服部信子『今すぐできる心の守り方 フラッシュバック・ケア』
藤本昌樹『生きづらさの正体はからだが知っている ボディ・コネクト・セラピー・ワークブック』
伊藤絵美『セルフケアの道具箱 ストレスと上手につきあう100のワーク』