神経発達症 療育

    神経発達症/自閉スペクトラムの子どもが大人になって社会にうまく出ていくために必要な3つのこと。 

①「自律スキル」 ー 適切な自己肯定感を持ち、自分にできることを確実に行う。できないことは無理をしない等、セルフ・コントロールのために必要なこと。

②「ソーシャル・スキル」 ー 社会のルールを守ろうとする意欲があり(空気を読む協調性ではないことに注意)、自分の能力を超える課題に直面した時に誰かに相談できること。

③「合意」 ー 他者からの提案納得できたら従うこと。言いなりにならない。自律的に自分の意思で行動して、社会のルールを守りながら、他者と関わっていく。



3歳、5歳、10歳のステップ

 療育は幼児期が最も大変。3歳(年少)までは親子で療育施設に通所することが望ましい。親子の愛着形成とともに親が子どものことをよく知り、無理をさせないため。集団に参加させるのは、その子が周りの子にならって自分の行動を修正する気持ちが出てきてから。

 5歳(年長)でコミュニケーションがめざましく伸びる。就学前に発達検査を行う。10歳を過ぎて(小4以降)感覚過敏がある程度和らぐと、親にちゃんと甘えることができるようになる。しっかり甘えさせて愛着形成が進むと、さらにコミュニケーションが伸びていく。 

 幼児期早期には生活リズムの確立が最優先。愛着のために親子いっしょに活動。子どもが見通しを持てるように毎日のスケジュールを同じ順序にする。始める最初の手がかり(手を添える等の指示)と、終わりの合図もセットで(構造化)。

 具体的な生活指導。「夜は9時までに寝かせ、朝7時に起きて朝食」「親子で一緒に体操」「TVや動画は1日1時間、夜20時まで」。適度な栄養、決まった時間に食事、間食も重要。偏食を失くすために様々な食べ物を勧める。慣れるまで繰り返し。少しずつ幅を広げる。

 

 時間をかけて付き合う。ほどほどに良い親であること。障害があるから普通の生活ができないと絶望するのではなく、「この子なりのゴールを目指して、これから共に関わっていきましょう」という姿勢を明確に示す。養育者の気持ちが支えられ、その子が持つ特性を肯定的に受容できるようになる。そのうえで両親や祖父母など関わる大人の間で意見を統一して子どもを迷わせないようにする。

 養育者が子どもと積極的に関わるために発達に合わせたレベル設定が必要。短期目標をスモール・ステップで設定する。緊急性、解決の難易度を考慮し、介入の優先順位をつける。できることから分かりやすく提示。指示は短く具体的に。見通しが持てるように終わり方も前もって説明。

 得意なことを見つけてほめて伸ばすようにする。好きなもの、嫌いなもの、得意なこと、苦手なことを知る(好きなアニメ、ゲームの世界観から暴言、暴力を起こすことも)。感覚過敏の有無(苦手な音、匂い、体に触られること、場所や雰囲気など)を確かめておくことで、後年、原因不明のパニックが減る。一人で短時間座って取り組める課題を知る。他者を巻き込まないで一人で楽しめる趣味は重要。



★言葉がなく目線が止まらずに流れる段階

 最初のこだわりは自己刺激を繰り返す反復運動、常同行為(手をひらひら、指しゃぶり、ぴょんぴょん跳ねる)。一定の入力によって外界からの雑多な情報を遮断し自己の安定を保っている。物に目が止まらないで目線がすーと流れる。周囲の世界が分からない。

 このレベルではわかりやすく安心できる子どもの空間を設定。壁やついたてを利用したり。開始終了の音楽を流すなど、空間、時間の構造化を行う。手をつないで体で誘導。本人と同じ目線に落として、後ろについて周りを眺めていると、その子が世界をどう見ているかが分かる。いずれ、目線が止まるところ(興味の対象)が必ず出てくる。


★好きな物(看板や換気扇など)がある段階(発達年齢 6か月以降)

 そういった混沌とした状況の中から、興味を持って識別できるものが出てくる。車や電車、標識やマークだったりする。周囲の音(聴覚)よりもイメージしやすい視覚的な手がかりで動く。こだわりを利用して療育する。回転物が好きな子にはくるくる回るものを標識に利用できる。それを生活の手がかりにしたり、他のものへも関心が広がっていく。繰り返し練習して、片付けなどの合図で次の行動への移行を知らせる。


★状況判断ができる(発達年齢 12か月以降)

 その次の段階が、ミニカーや線路を並べる。位置にこだわるといった順序へのこだわり。自分に合ったやり方で世界の秩序を作り、安心する。その次が強迫的な質問癖。同じ質問を繰り返して同じ答を求める。自分なりのやり方で対人関係を発展させていく。

 療育者を意識している段階なので、スケジュール・カード等を利用して、子ども自ら動けるようになってくる。信頼できる療育者の指示に「合意」できたから動く。ただ見せればいいわけではない。

 信頼できる療育者が作る、安心できる枠組みの中で日々を過ごすことで、少しずつ、新しいスケジュールの変化に応じることができるようになり、こだわりを少しずつ崩して、自ら新しいことに挑戦していけるようになる。例えば、工程の一か所だけ「待つ」所があることをあらかじめ伝え、そこだけ我慢させる。それを繰り返して徐々に変容を促していく。最初は単純なルールから初めて、徐々に例外を加える。


 言葉の誕生と他者イメージ、基本的信頼感

 自閉症児は感覚統合能力の発達が遅く、身体模倣も遅れる。身近な大人の真似をして一緒にダンスや体操するのが苦手。身近な大人の表情、声の調子、身振りとつながった形で理解して初めて言語の意味が分かり、身近な大人のイメージを自分の中に取り入れることができる。それが基本的信頼感(養育者との一体感)となり、身近な大人が「安全基地」となり、いつでもそこに帰れる前提で、子どもたちは周囲を「探索」し、他の子どもとの「遊び」に向かうことができるようになる。


 遊び

 発達年齢1歳以降は、遊びや身辺の課題を通して身体感覚を伴ったイメージする力を育て、言語理解、コミュニケーションを養う。

 自己刺激や一人遊びばかりで、他者に関心を示さない段階なら、例えば、お父さんが高い高いをする、くすぐるといった、一人ではできない遊び、大人が体を使った遊び(身体感覚を伴った遊び)を一緒にする。

 体操を一緒にする。おんぶする。一人でブランコに乗せるのではなく、大人が押してあげる。滑り台を一緒に滑る。親が自分と同じ方向を見ている感覚(共同注意)が愛着とイメージする力を育てる(幼児はまだ親と一体感がある)

 しだいに追いかけっこやボールの投げ合いなど、双方向の身体感覚を伴った遊びに進んでいくが、最初は子どもの後ろにもう一人ついて遊びの形を教えるのが望ましい。


 遊びの例

園で習うリズム遊び、例えば「とんとんとんとん髭じいさん」は握りこぶしをとんとんする動きが合谷のツボ押しになり、心身を安定させる。最後に、手はお膝で楽しく姿勢を正すことができる。

「バスタオルで遊び」、手巻き寿司(バスタオルで幼児をくるむ)、綱引き(綱にして引っ張り合う)、乗ってすべろう(そりのように乗って左右の端を手で持ち、前を引っ張ってもらう)、パンチ、キック(端を丸めてサンドバックのようにぶらさげる)、キャッチボール(丸めてボールにして投げ合う)


 身辺の自立

 身辺の課題はトイレット・トレーニング(時間を決めた誘導)とスプーンの自立から。それから服の着替え、入浴などの自立へ進む。子どもに前に大きなボタンがついた服を着せ、親が後ろに立って、手を取って必要な動きを導くというように、子ども目線の介助から始める。

 最初は課題をスモール・ステップに分ける。例えば、仕事の仕上げを教えて逆に進む。靴下のつま先もかかとも履いた状態でゴムを引っ張り上げることから始めて、次はつま先を入れてあげて、かかとから履く。最後につま先から履いていけるように。

 排尿、排便の成功から「すっきりした」「うれしい」という身体感覚。赤いイチゴをスプーンで食べて「赤いの」「美味しかったね」。タオルを見たら入浴、園のスモックを見たら登園というように、ジェスチャー等の身体感覚イメージと結びついた形でさらなる言葉の理解を促していく。

 親について一緒に行動する、親の言うことではなく「することを真似する」ことで、生きた言語を使えるようになり、状況判断、コミュニケーションができるようになっていく。

 子どもから要求が出た時がチャンス。ミルクを要求したら、コップを持ってこさせる。遊びたいなら、一緒におもちゃを用意する。遊び終わったら一緒に片付ける。片付ける戸棚の場所まで具体的に伝えて一緒におこなう。自分も体を動かす。口で言うだけはダメ。可能な範囲で料理を手伝わせるのも、食わず嫌いの場合に、どんな食材なのか実感できる。

 嫌がることでも必要なことなら15回は粘り強く教えることを繰り返す。毎日なら2週間、週1回なら3か月はがんばる。抵抗が続く場合は感覚過敏が邪魔しているかもしれない。例えば、服をすぐ脱いでしまうのは素材の不快感(肌ざわり、蒸れる等)のせいかもしれない。


 集団でのルール

 幼児期中期には対人関係を意識し出す。最初は親や先生、それから子どもたちに広がる。失敗を恥じて親や先生に隠す。友達の中でかけっこで一番になることにこだわったりする。自尊心にも配慮。発達段階に見合った集団参加をさせる。ルールを学ばせる。

  着席できない子どもには、好きなおもちゃを机の上に持っていき、そこで遊ばせる。次に、絵を描く、黒板の書き取り、計算をするといった簡単な課題を出し、1分以上、5分を目安に着席させる。だんだん時間を伸ばす。先生が1対1で指導し、集団参加の準備をする。全てできるようにしようと思わず、まず着席する。書き取りをする等、目標を絞ってスモール・ステップで。

 最終的に、年長でルールを守る(着席する、順番を守る、待つ)、苦手なことにも応じる、がまんするといった姿勢ができているとよい。 



★本人が理解できる伝え方、指示の出し方

 感覚過敏がベースにあって、あいまいな情報より具体的な情報に過集中。聴覚より視覚情報が受け取りやすい。視覚イメージを細部まで記憶しているため、細部にこだわり、要領よく行動できない。結果として、時間、空間という、あいまいな概念の把握が難しい。そのためTEACCHプログラム(予定時間、場所、行動など、生活環境を構造化)が有効な療育手段となる。

 センテンスを短く。内容を分割。一度に覚えることができる量の指示にとどめる。実物、絵カードを用いるなど、理解しやすい視覚コミュニケーション手段を用いる。

 予定をスケジュール表や絵カード等で視覚化して順番に並べる(時間の構造化)。教室、体育館、給食の部屋、遊ぶ場所などを分ける(空間の構造化)ことで、一つずつ順番に理解し安心して取り組むことができる。

 細かい段階に分けて指示(スモール・ステップ)。まずこれをやる、次にこれをするといった見通しを伝える。時計を使って始まりと終わりの時間を決める。始まりの合図で教室に入り、終わりの合図まで我慢することを徹底する。急な飛び出しをさせない。逆に、子どもが好きな活動をやめさせるときは、おやつや好きなTV番組など、切り替えやすいプログラムを用意する。

 重度の子どもであっても、わかりやすく限定され、情報をシンプルにした枠組み(いつからいつまで、どこで、誰と、何をするのか)の中でなら安心して授業を体験できる。繰り返し体験すれば定着していく。その際に支援者は大声を出さない。感情的にならない。前もって示されたスケジュール通りに無心に誘導すれば、刺激が減り、暴れる頻度も減る。


★対人関係の基本的なパターンを教える

あいまいな言い方を避け、具体的に示す。こういうときはこうするというパターンを単純化して教える。こういったときはノーと拒否する。人に相談する等。ヘルプ・カード(「教えてください」、「休みたい」等)を作っておくと安心感につながる。

ただし似たような状況に応用する(一般化する)のが苦手なので、「こないだと同じでしょ」ではなく、個別に新しいパターンとして教えていく。

 自然な対人距離、マナー、モラルといった暗黙の了解、自己主張と他者への配慮のバランスをそのつど教えていく。でないと対人関係を被害的に捉え妄想に発展していく。 

 勝負に勝つことへのこだわりがおさまらない子に対して、「負けて悔しい」という気持ちは認める。その上で、自分も悔しいが友達も悔しいはず。勝ち負けを表に記録して示すなど、客観性、他者視点を持てるよう促す。

 他には、療育者が、椅子に座って俯き、じっとしている姿をして「負けたけど我慢」の具体例を身を以って示す。「かみつかない」、「怒鳴らない」などの約束カードを作り、守れたらごほうびを与える等。


 重度の子どもで意思表示できなくても、その内的世界に関心を持ち続け、息を合わせる(呼吸のリズム)、声の調子、身振り、表情を合わせるなどペーシングをおこなう。例えば、子どもの行動に驚いたり褒めたりする。子どもが「やった」と体に力をこめれば、こちらもガッツポーズをする。振り子を眺めるのに没頭していれば、同じペースで場を共有する等、子どもの関心を尊重する。続けていくことで、最初は無関心だった子どもがこちらを気にするようになって、感情が了解可能になってくる。



★ダメ出しばかりではなく、できたことを評価する

 損なわれがちな自尊心、自己肯定感を高めるよう配慮。例えば、適切にヘルプを求めることができたり、一日パニックにならずに我慢できたのなら、一日の振り返りの時間(帰りの会)にそのことを褒める。振り返りは、「朝、ランドセルをロッカーに片づけたか」から「帰りに連絡帳を書けたか」まで二人で評価し、できた分のシールを貼る。

「何がダメか」だけでなく「何がOKか」を明確にわかるようにする。 ダメなことで止める必要があることは、冷静に「やらないよ」と伝えて止める。望ましい行動を教えることもセットで行う。例えば、「ウロウロしないで!」ではなく、「ここに座って(椅子に触れながら)」のように、否定文ではなく肯定文で指示すれば、できたら褒めることができる。

 これらを繰り返して、問題行動を適切な行動に変えていく。褒められて守られていることを確信して初めて、自主的に新しい変化を受け入れることができるようになる。



 作文による指導 ソーシャルストーリー(キャロル・グレイ)

 子どもが最近体験したことからイメージを膨らませる。療育者と子どもで話し合って文章化。「何をして、結果、どうなった」を意識しながら、子どもの表現を生かして書く。それを子どもと一緒に朗読し、それから模写してもらう。

 トラブルになりやすい状況の事実経過、背景にある理由、本人のふるまいが及ぼす結果、そこに関わる他者の意図や気持ちを理解した上での、適切なふるまいとその結果を説明。一般的には暗黙の了解とされていることや、他者視点を、自閉スペクトラムの認知特徴を考慮して説明(ex. 教室で静かに先生の話を聴く理由)。

 ~すべきという断定的な記述は避け、本人が自分の意思で学び、ふるまいを変えることができるように導く。柔軟性が必要。子どもの意思を支配する道具にしない。ストーリーの要点をノート、手帳にまとめ、自分でくりかえし確認することで、こだわりを減らすことができる。

 間接的で客観視しやすいが、それでもトラウマ体験は扱いにくい。扱うには、援助者にしっかりと守られている安心感が前提として必要。



 こだわり行動

 自閉症児は、世界との関りをこだわり行動で表している。こだわりで不安を打ち消そうとしている。こだわりを積極的に利用して療育につなげる。 一日のスケジュール、身だしなみといった役に立つこだわりを決める。総量は変わらないため、好ましいこだわりを増やすと、人を巻き込んだ有害なこだわりは減る(こだわり保存の法則)。不都合な決め事は、いきなりやめさせるのではなく、少しづつ、より適切な決め事に置き換える。子どもと家族の生活に支障をきたさないようにルールを決めていく。

 ジクゾーパズルのような、物の形をマッチングさせることへのこだわりがあり、心理検査で、言葉を用いない視空間スキルが優位なことが多い。口頭での指示(聴覚)だけではなく視覚に訴える。例えば、「みかん」と言って現物を渡すことを繰り返すと、音(言葉)と実物のみかん(言葉の意味)がマッチングする。

 行為と結果のマッチングにこだわってしまい、予期通りの反応を引き出すために悪いこだわりを繰り返してしまうことがある。例えば、「友達をつねると、友達が泣く」を悪いことだとわかっていても繰り返す。儀式行動に繰り返し母親を付き合わせる。こういった挑発行動や巻き込みは間違った方法での世界(養育者)への関りである。不安が強くて、本来は養育者に甘えたいのだから、まず養育者自身が落ち着いて、叱責を控え対決しない。褒めることを増やして、良いこだわりに置き換えていく。

 優れた記憶力が災いし、過去のトラウマが薄まらずフラッシュバックしやすい。「虐めっ子の声や姿が幻覚となり、教科書に書かれた人間が全て虐めっ子の姿に見えて、教科書が開けない」。「女子に馬鹿にされたことで、過去の女子にまつわる体験が芋づる式に思い出され、女性全てへの強い憎悪になる」といったケースがある。感覚過敏にトラウマが掛け算される。


 ごっこ遊びは2才頃から始まり、他者の気持ちや立場を推し量る想像力、つまり「心の理論」につながっていく。定型発達では4才(年中)で通過するが、ASDでは10才以降(4年以降)になる。これまで気づかなかった、他者からの批判を受け止めることが可能となる。自身のユニークさを自覚。この時期にいじめに遭うと対人関係を被害的に捉えやすくなってしまう(この頃、母親に再び甘えることが必要)。

 心の理論を通過し、他者との関係に気づき悩み始めた頃が告知のタイミング。診断名は必ずしも必要ではない。理解に合わせて特性を具体的に伝える。高校生ごろ、社会に出る前のタイミングで、2度目のより詳細な告知をおこなう。 

 学童期にはいじめを受けたり、不登校の問題がある。原因は対人関係の失敗、勉強の苦手さ等。失敗体験の積み重ねから自己同一性の混乱が生じ、性別違和につながることもある。母親とイメージの中で一体化し、母親への巻き込み強迫が続くことも。

 兄弟に与える影響についても両親と話し合う。両親が神経発達症のある子どもの世話にかかりっきりになったり、逆にそうでない子どもを溺愛したりといった問題が生じ得る。



成人期

   社会適応のためには、「毎日決まった時間に起きて学校に通える」。「歯磨き、洗顔、朝食、着替えなど毎日決まっていることができる」。「書き言葉はひらがなで十分。具体的な物を10ずつ数えられ、100まで数えられたら十分」。「自分の気持ちを伝えられる。イヤなことを断る。わからないことをわからないと相談できる」。場面ごとに正しい対応を覚えていく。青年期以降に容易に行えるように、学童期に、歯科、耳鼻科、服薬の練習もしておく。


 進学就職に際して

 基本的には、特性に合った学問、仕事を選ぶ。ただし、本人のやりたいことをまずは優先する。やりたいことをやって失敗したなら、また相談して別のことにチャレンジできる。人に言われたとおりにして失敗したら、頼れるのは自分だけだと考えてしまい、相談できなくなるかもしれない。


 記憶が得意なため、あらかじめ教えられた作業で、スケジュールが決まっていて、個室や仕切りがあって、人と接する機会の少ない仕事が好ましい。一定の状態に維持する仕事。例えば、倉庫管理、図書館の司書、博物館の管理者、ホテルの室内清掃。

 いつ、ノーというべきか、いつ、ヘルプを出すべきか、事案ごとに伝えていく。間違いをはっきり指摘して正しいやり方を教える。困ったときに上司や仲間に助けを求めることが難しいことに注意。炎天下で水分や休息をとらずに働き続けて倒れることも。

 自由時間や仕事の後に仲間と遊びに行くこともできない。対人関係、特に異性関係についても、あいまいな対応をせず、誤りを指摘するほうが本人も喜ぶことが多い。

 その一方で、他者に合わせて過剰適応、やるべきことをしすぎる上に、やりたいこともたくさんあるので、睡眠不足になっている場合もある。やりたいこと、やるべきことを、ちょうどよいバランスに調整する。がんばりすぎて突然倒れないように、休暇や、趣味も大切。

 決まった作業の反復なら黙々と従い、優れた能力を発揮する反面、交渉するという概念がなく、嘘をつけない。失敗体験から過剰に人に合わせようとして騙される可能性。

 仕事を長続きさせるためには、仕事の成果を目で見てわかりやすい形で理解する。例えば自分が組み立てた部品が実際に工場で使われて自動車パーツになっていることを知るなど。給料をもらったら、現金を下ろして、ある程度は好きに使うことで発散する。




問題行動が繰り返される場合

行動の理由を探る

 なんらかの言葉がけや対応が鍵刺激となってパニックを引き起こす場合がある。暴力は絶対に止めるが、問題行動にその人なりの理由があれば、それに伴う感情とともにいったんは否定せずに認め、信頼関係を築く。でないと問題行動がエスカレートする。

 すぐ教室から出ていく子どもを「落ち着きがない」と捉えるのではなく、「聴覚過敏があって騒がしいのが苦手だから」ではないかと考える。

 パニックの時はまず別室でクール・ダウン。静かな部屋で勉強することから始める(環境調整)。比較的静かな後ろの机で、授業を短時間受けて、少しずつ時間を伸ばしていく。我慢できなくなったら、教室の後ろで自由に体を動かすことを認めてもよい。達成できたらシールを貼る、ほめるといった形で適切な行動を強化する(トークン・エコノミー)。


 教室で楽しく学べるようになれば(主体的に行動できるようになれば)、以前と同じ騒がしさでも耐えられる。職場や公共の場でも同様で、例えば、レストランの配膳ロボット、掃除機の音等、特定のものが苦手な場合、それがどういうものか(脅威にならないのか)知識を得て理解できれば、平気になることがある。


 重度の子どもであっても、一見無意味でわけのわからない言動、行動にも、彼らなりの感情や意味がこめられている。繰り返すフレーズやイントネーションに意味がある。それを支援者が真似ながら共感の雰囲気を作る。その上で、手を引っ張ってきたなら、「いっしょにやろう」など、適切な表現を繰り返し伝える。信頼関係ができてきて初めて、「一度に使う石鹸は1プッシュ」など生活習慣の枠、仕事のルールを教えていくことができる。



突然の激しい暴力について

感覚過敏のため、小さい刺激を強烈な痛みに感じて反射的に払いのけてしまうことがある。危険行為をやめさせるために良かれとおこなった身体接触や言葉がけが、さらなる不快刺激となって、とっさの反射行動につながり、問題行動を繰り返す。


問題行動 → (叱って力づくで止める) → ごめんなさいと謝りながら教師を殴る 

→(さらに叱って力づくで止める) 

この場合、ごめんなさいという言葉も、ただ言っているだけ。感覚過敏に伴う反射行動がベースにあって、不快な場面を常同行動、行為チックのように繰り返してしまうサイクルが形成されている。繰り返すたびに過去の不快体験がフラッシュバックして暴力がエスカレートしてしまう。


 ふいに「がんばったな」と褒められ軽く肩をたたかれるといった、良い感情の声かけや軽いタッチでさえ、予測しなかった不快な騒音や圧迫感として捉えられてしまい、反射的に危ないものを払いのけ、結果的に教師に対する暴力となる。

 教師からしたら、いきなり殴られた。憎まれているのか?と感じ、つい感情的になって叱ってしまう。子どもからしたら、教師に驚かされて、つい殴ってしまっただけだから(反射行動だから)、殴ったことは意識していない。教師が怒ってきたことだけが印象に残り、「先生怖い」というトラウマになってしまい、ますます刺激に反応しやすい悪循環に陥るかもしれない。

 反射的な行動を繰り返して、常同行為に入ってしまっている時は意識レベルが低下してトランス状態。理性に訴えかけようとして、感情をこめた声かけ(コラ!やめなさい!)やボディタッチ(力で抑えつける)をすると、不快な騒音や圧迫感と受け取られ、さらなる反射的な暴力を呼ぶ。

 そうならないように、パニックが始まってすぐに、違うこと(例えば好きなアニメキャラ)に関心を移すように誘導する。これは、普段からの信頼関係や、子どもの理解が必要で、実際には誰もができるわけではない。


 危険な行動を起こさせないために、前もって、きっかけとなる刺激を極力しないようにする必要がある。そのためには、いつも同じ信頼関係のある教師が、大声を出したり、イライラしたり、怒った表情をせずに、例えば、見るだけで分かる形(絵カードやスケジュール表の張り紙、ホワイトボード等)で示し、無心になって誘導する。

 普段から手つなぎ歩行や決まった作業といった集団行動をおこなって、開始や終了の合図にも慣れさせておく。前もって教室から要らないものを片付け、大事なスケジュールを張り紙やホワイトボードに書いておく、といった工夫をする。前もって「これから何が起きるか」「どうするとよいか」を伝えておき、今、注目すべきことに集中させる。


 自分で勝手に行動できる「マイ・ペース」の状態が続いてしまうと、児童は何をしていいかわからず混乱してしまう。常同行為から自分の世界に没入して、しだいに意識レベルが下がり、理性の抑制が外れて衝動的な問題行動を起こしやすくなる傾向が強まってしまう。構造化されたユア・ペース(先生に指示されている状態)をうまく作っていく。

次に何をすればいいかわからないし、そもそも何が起こるかわからないという状態ではなく、一日のスケジュールや活動予定(ないし、新しい変更)があらかじめ知らされていて、いつでも視覚的に確認できる。余計な新しい情報が入らない状態で、かつ大人に守られている安心感を与える。


 始まりが感覚過敏に対する反射行動であったとしても、叱られたトラウマが掛け算されてしだいにフラッシュバックによる強化が入り、行為チックになっていく。また、10歳以降、感覚過敏が多少やわらぎ、養育者に最接近する(甘える)ときに、不適切な方法として、挑発行動や、こだわりへの巻き込みが起こり得る。それらは本人もコントロールできず常同化しているものだから、巻き込まれず対決もしてはいけない。しかし、その背後にある、受け入れてほしい願望、甘えを意識した対応をおこなっていく。


甘えたい気持ちの裏返しで大暴れしている場合に、それを力で抑えつけるのではなく、受け止めるイメージで対応し、ひと段落した後に、投げたり、壊したりした物をいっしょに片づける。その上で振り返りをする。本当の気持ちへ気づいていくのを見守りながら、養育者(多くは母親)との愛着を再びはぐくんでいけるよう指導する。例えば、母親に頼んで、「一番大切なのはあなた」と語りかけてスキンシップしてもらうことを繰り返していく。




ローナ・ウィング、ドナルド・ウィニコット、ジョン・ボウルビィらの入門的な著作も参照しながら、杉山登志郎先生やアスペ・エルデの会の著作、吉田友子先生、本田秀夫先生の著作からも引用、ないし着想をいただいて、まとめています。