心的外傷及びストレス因関連症群
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
侵入(フラッシュバック、悪夢)
回避 / 認知と気分の陰性変化(解離性健忘をともなう)
過覚醒(苛々、集中困難、不眠、驚愕反応、自己破壊的な行動)
長期にわたってトラウマに曝される複雑性PTSDでは慢性的な無力感、無価値観のため感情のコントロールができなくなる(DSMー5ーTRではPTSDの診断基準に包括されている)。
自己組織化の障害(DSO disturbances in self-organization)が存在
① 感情調節不全(苛々、落ち着かない、集中できない)
② ネガティヴな自己概念(生きる価値がない)
③ 対人関係上の困難(人を信頼できない、親密になることへの恐れ)
6歳以下の子どもの場合、侵入記憶は再演される遊びとして表現されるかもしれないし、悪夢とトラウマの関連がはっきりしないかもしれない。数年後に症状が顕在化する場合も。
DSM-5のA基準(トラウマへの暴露)は主観的な苦痛度では判断しない。「危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受けるできごと」が対象。虐め、パワハラ、セクハラ、離婚といったできごとではない。ただし、PTSDの診断基準に該当しなくても、複雑性PTSDの臨床症状は出現しうる。
反応性愛着障害(養育者との愛着関係の未形成から、情動コントロールができない)
抑制型(反応性アタッチメント障害)ASDと区別がつかない
脱抑制型(脱抑制型対人交流障害)ADHDと区別がつかない
発達性トラウマ症
幼少期からの虐待の積み重ねで複雑性PTSDを呈する病態。養育者との愛着形成のなさは最大のリスク要因の一つ。人格の形成には鏡となる養育者が不可欠(いざというときの安全基地)。安全基地がない、守られていない人は、虐待者のターゲットになりやすい。虐待者もかつて被虐待者(虐待の連鎖)
ADHDとの鑑別点として、解離(フラッシュバック)の有無が重要
お化けの気配はない? 暗いところで? 誰かが怒鳴る声は?(解離性幻覚)
叱られている時に「あくび」をして意識もうろう
体験の不連続(記憶の欠落)昨日の最後の授業は/昨夜のご飯は? 物忘れが多くない? 大暴れした後に全く覚えていない。
離人感 / 現実感消失 上から自分の姿を見下ろしている。
拒絶する体験を学んでいないのでNOと言えない(例 嫌いな教科を答えられない)。
被害を受けた時の感覚(匂い、音、風景)の記憶が冷凍保存され、解離性人格となってしまう。
→ 5年、10年経ってフラッシュバック(今起きているかのように)→苛々、落ち着かない、集中できない パニック → 双極性障害、発達障害(ADHD)と誤診
支援者は、被害を打ち明けられたら、「伝えてくれてありがとう」とほめる。「あなたは悪くない」「恥ずかしくない」 (一見、平静でも、合理的に考えられるより大きな恐怖感がある)
親自身もつらいが、そういった姿を見せると、子どもは何も言えなくなる。
子どもの前では冷静を装ってワンストップセンターや病院など第3者に相談を
被害者には、話す困難、回避、加害者をかばうことも
慢性のうつ病、不安症、アルコール、薬物依存症の背景にトラウマ→「これはみなさんに確認していることで、違うかもしれませんが、こういった経験はありませんか」 もしかして?という視点を常に持ち、確認する習慣を!
被害後、3か月間は症状の変動が激しい。多くの人は自然回復。
PTSDが慢性化すると、決して時間が解決しない
トラウマ体験があった可能性を念頭に置いて、成育歴、生活歴も聴取。
解離のため、本人が思い出せない。正確に認識できない場合も。
加害者と同居、ないし関係が続いている場合は、医療の前に法的保護。
差し迫った自殺の危険、自傷、過量服薬を防ぐ
→被害者は、自分が悪いと過剰に自責的になりやすい。
→「あのときそれ以外の選択肢はなかった、仕方なかった」
PTSD症状は誰にでも起こることを伝える(ノーマライゼーション)
性的虐待を受けた側の心理
親、お世話になっている先生、上司による性加害を受け入れないと生活が壊れる。
尊敬する大好きな相手からの突然の行為。加害者からの口止め。自分は無力。
自分は特別扱いされている? 秘密を抱え周囲をだましている後ろめたさ
歪んだ支配(BLIND) 杉山登志郎編著「子どもの診療科」より改変
Brainwash 誰もがしている(しなければならない)ことだと洗脳
Loss 母親や周囲の人が知ったら哀しむ。お前はすべてを失う
Isolation(孤立させる)他の親しい人との交流、情報を遮断
Not Awake 意識がはっきりしていない、落ち込んでいる時に始まりエスカレート
Death Fears 喋ったら殺す お前は無価値だ
性的虐待順応症候群
自分から虐待を受け入れてしまう。虐待者をかばう場合もある。
誰かに打ち明けても、心は揺れ動く。家族も否認(親/先生/上司がそんなことするわけないでしょ!)→ 親/先生/上司は間違っていない→自分が悪い
モラルの混乱→本当のことを言うのは悪く、嘘をつくのは良いこと
幼少期(ないし、知的、発達障害のある場合)は
何をされたかわからない。でも何かおかしい。
不快感(痛み、心理的苦痛)の一方で、特別扱いされる心地よさ→混乱、解離
何年もたってから、知識を得たり、成長段階のトリガーで、突然症状が!!
被害の後、数年たって症状が出現。
性被害が及ぼす影響 トラウマの再演
性的なことを避ける 嫌悪感を抱く一方で、性行動が過剰になる場合も なぜ?
被害ではなかったと思いたい。
主体性を取り戻したい。上書きしたい。
自分は汚れてしまった。自暴自棄。傷つけたい。
「性的に見られることでしか他者に認められない」と感じる。
→再び被害に遭うが、周囲からはお前が悪いと言われてしまう!
保護者への心理教育
子どもは保護者の動揺を介して、自分の身に起きた出来事に気づく。
保護者の傷つきをケアしエンパワーすることで、子どもの回復を支える。
保護者自身に性被害の経験があることも
悲しみや怒りの気持ち「自分は誰にも助けてもらえなかった」
一方的に情報を与えるのではなく、保護者の気持ちを汲み取ることが大切。
治療 介入のカギは
感情に触れること。
例えば、「加害者が当初は優しく見えたこと、信頼していたこと」
回避行動をしていることへの気づきを促すこと。
例えば、「加害者が、被害者の尊厳を踏みにじった」事実を避けている。
嫌なことは嫌と言えるように。
支援者は代わりに怒る、悲しむ。一人で味わうしかなかった嫌な感情を支援者と共有できること。
→解離によってスイッチを切って、眠っていた体の感覚がよみがえってくる。皮膚の痒みが出たり、自律神経の乱れが生じる。この時期は身体ケアも大切。
自分の心と体を自分でコントロールできるようにしていく。
主体的に自分で選ぶことが大切。治療の選択肢から、コーヒーを飲むかジュースを飲むかまで。
薬物療法より、心理療法 TSプロトコール(トラウマ処方、チャンスEMDR+自我状態療法)
安全な状況下でトラウマを慎重に少しずつ扱う、そのための手法
一般的な精神療法だけでは、治療が深まっても解離(フラッシュバック)が吹き飛ばして、最初から。悪夢のような堂々巡り→フロイトのいう反復強迫、タナトス(死)への衝動。
解離に対する心理教育(自我状態療法の要点)
解離(フラッシュバック、健忘、別人格)はトラウマに対する正常な対処反応。
忘れたり、別人格を生み出すことで、主人格を守ってきた。必要なこと。
積極的な人格統合は必要ない。全ての人格を尊重。
子どもの別人格は過去の自分、虐待者の他に、キャラクター、動物などもある。
フラッシュバックへの対処
フラッシュバックは虐待者の前ではなく、ある程度安全な環境、支援者の前で、幼児退行などともに現れる。
虐待者からされた暴力を演じる。自傷する。「暴力ではなく、物に当たってほしい」「物に当たるよりは、感情を表現して怒ったり、泣いたり、甘えたりしてほしい」「最終的には感情を自覚して言葉で表現してほしい」と対応。
その際に暴れてしまう「感情」は受け止め、「行為」は危険だから止める。「自分の体を大切にしてほしい」。暴言や挑発には乗らない。乗ってしまえば、加害者や無理解な大人と同じ立場。
ボディワーク
地に足をつけ、しっかりと意識して踏みしめる。踏み鳴らす。
息を吸いながら手を前に出し、息を吐き出し、「嫌」と言う。境界線の確立。
5メートル開けて向き合い、治療者を虐待者に見立てる。近づいてきたら「ストップ」と言う。
児童思春期の入院治療
職員で統一して、一貫性のある対応。
あらかじめ、何が危険でルール違反になるか説明。暴言を言わないという曖昧なルールではなく、「死ねと言わない」といった具体的な提示。
生活習慣の確立のため、やるべきことを示した日課表を作る。一つ一つの手順、どこに何を片付けるかまで明確に示す。活動の時間、宿題の時間、おやつの時間、入浴の時間など決める。学習室、体育室、食堂など空間も区切る(時間、空間の構造化)。
夕方にテンションが高くなる傾向があるため17時半から30分間を安静時間として、自室で音楽を聴いたり絵を描いたりしてもらう。就寝前はリラックスできる音楽を流し、ベッドサイドで本の読み聞かせやマッサージをおこない入眠誘導する。
夕食後に一日の振り返りの時間。トークン・エコノミーで、望ましい行動があった数だけシールを貼る(例 部屋の片づけをした 暴言が無かった 暴力が無かった)。達成可能な項目を作ることで褒められる体験をさせる。スモール・ステップで課題を上げていく。何気ない行動にも気を配り、できて当たり前のことでも肯定的に評価する。問題行動が無かったことも評価する。
興奮したら、タイム・アウト部屋でクール・ダウン。その状態では言葉は耳に入らず、無理に押さえつけると外傷場面のフラッシュバックが生じて興奮がエスカレートしてしまう。
収まったら、振り返って言語化を促す。投げたものを片付けるなど可能な範囲で対応させ、自分のした行動の責任をとらせる。落ち着かないときの対処を一緒に考える。深呼吸、水を飲む、ぬいぐるみを抱く、タイム・アウト部屋に行く等。セルフ・コントロールできるように。