NHK ETV特集「ドキュメント トラウマ治療」白川 美也子

 NHKEテレ「ドキュメント トラウマ治療」

参考 赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア 自分を愛する力を取り戻す 白川 美也子著


トラウマ / PTSD

自分の体の反応がコントロールできない。「これはフラッシュバックと自覚する」


トモカ50代女性

10才で火事で父を亡くし、火にまつわる記事を読むと火事の映像がバーンと出てくる(フラッシュバック)。今起きているかのように感じて、頭が真っ白、汗をかいて、眠れない。


「ボディコネクトセラピー」

 トラウマを想起した上で、棒の先端を目で追う、1方向への眼球運動とツボの自己タッピング(合谷)に、深呼吸等のボディワーク、自己暗示(アファメーション)等を組み合わせ、身体感覚に働きかける(ボトムアップの)心理療法。EMDRと比べて簡易に施行でき、安全性が高い。

 教示する姿勢 一定の声のトーン、包み込むような雰囲気。共感を前提に時に優しさに裏打ちされた厳しさ。


「今、かすかに涙がわいている。それがどこからくるのか気づいて。」

「それ(つらい記憶)と一緒にいて」「今何がある」「お父さんを助けたい」「そのときまだ10才だった」「そうなんですよね。わかっているけど、どうにもならないんですよ」「生きてなきゃいいのにって思っちゃう」「それ今お父さんが聞いてたらどう言うと思う」「悲しいと思うんですよね。そんなこと言うなって言うと思います」「それと一緒にいて」「もう責めなくていい。それは終わったこと。もう大丈夫」「自分のことポンコツって言わないで生きていていいんだ」「そうそう」


白川 美也子「トラウマを処理しきれず冷凍保存されたものが、何かのきっかけで解凍。フラッシュバック。治療ではその感覚、感情を感じ切って過去のものと認識できるようにする。今苦しんでいることがどこからきているのか?治療者が一緒に降りていって、その根本的な部分を見て、そのことに影響されない記憶に変えていく。大事なのはトラウマ体験からくる感情をしっかり感じ切ること。感じきったら過去になる。」



ノゾミ20代女性

 14才の時、同級生複数から10ヶ月間もの間、被害にあう。以前、治療を受けたが、最近、職場で加害者に再会。それがきっかけで悪夢。中学生の頃に戻る。


 「言いたいこと言わずに来たと思うよ。嫌だと言えなかったから。そのとき。」フラッシュバックで呼吸ができなくなる。断れないうちに自分が悪いと考えてしまう。あの時にそこに行かなければ、など自分を責める。

 性被害は8割顔見知り。4人に1人が上下関係から。スクールカースト。和を乱してはいけない。仕事に影響がある。組織にいられないという気持ちが背景にある。嫌だけど嫌と言っちゃいけない。同意が明確ではない状況。NOと言えない。

ノゾミさんの絵 目隠しされたアダムとイブ 性の根源を消し去りたい願望の表れ?


白川 美也子「周囲から大げさ、気にしすぎと拒否される。社会そのものからの否認。残虐なことって人は見たくないもの。社会が見ないようにしている」。忘れなさい/貴女も悪い→二次被害


CAPS(PTSD評価尺度)の数値で重症度を比較  悪くなっている。

現在の加害者との接触。過去の性被害時に首を絞められた感覚が同じ時間軸で重なる。

→殺される恐怖がフラッシュバック。


EMDR トラウマを想起した上で、眼球運動と深呼吸 手を置くハート型のクッション ぬいぐるみの用意は白川先生の工夫か。


「恋人に触れられた時も加害者の手の感覚と一緒(過去が今として感じられ、過去と今が重なる) 他人の手ってみんな一緒なんだって 好きだという言葉がすごい違和感 恋人の前でも脱ぎたくないという感情」

「それと一緒に」嫌だ!と繰り返す。水を飲み下す。水が食道を降りていく身体感覚と一緒に降りていって感じ切ること(マインドフルネス)


我慢しないで 小さなノーを積み重ねる。嫌だということを伝える成功体験。

今の自分は過去と違う。自分は戦えることを、体に刻みたい思いをこめて、未来の自分への手紙。「嫌と言える。嫌なことを選択しない。小さなやめて欲しいことを人に伝えるのも大きな決断で、自分が我慢することで耐えてきたけれど、小さなやめて、NOが人に伝えられるようになった。また地獄はあるかもしれない。今はしばしの休息。80才の貴女が今よりずっと良い人生でありますように」


白川 美也子「人間というものはみんな傷があって、何らかの形で、それが私というものを作っている。誰にでも起こりうる。行動の背後に何があるのか思いを馳せる」

 こんなに大変な人もいるんだ。かわいそう!じゃなくて誰にでも起こりうるもの。こんなストーリーもあるんだって、安易に消費してはいけない。

 性被害を受けたとき、親が「何があっても貴女は私の誇りだと言ってくれた。それが背骨を支える。それまでと変わらない日常が大切。

 フラッシュバックで歩けなくなる時。母親が一緒にいてくれた記憶。となりで刺繍をしていたり、何気ない時間が浮かんでくる。沼底からポコポコと。

 周りの理解。小さな言葉かけでもいい。理解をしようとしてくれることが回復につながる。



カオリ30代女性

 幼少期に母からの虐待、殴られる怒鳴られるフラッシュバック

 ずっと後になって、娘がドンドン歩いたり、大きな声で、うるさいと言ってしまう。耳栓で生活。お風呂で娘の肌に触れても何も考えられなくなる。具体的な記憶ではなく、虐待されていた時の感覚がフラッシュバックする。

白川 美也子「4才くらいまで言葉がはっきりしない。記憶は言葉で規定されてない。では記憶はないか?ある。体が全部覚えている」。

ACE adverse childhood experience(小児期逆境体験)自殺念慮、依存症の率が高まる。


トラウマに感情が乗らない。自分のこととして話せない。それが解離。自分を守ってきた。

娘が騒ぐと暴言、手をあげてしまう。その自分の声に怯えてしまう。わけがわからない→幼少期の記憶が今ここでの現実として体験されている。


「ゆめくい小人」ミヒャエルエンデの絵本。怖い夢を食べる怪物を呼ぶ呪文を娘と一緒に唱える必要→祖母、母、娘と虐待による悪夢(フラッシュバック)が連鎖している。


白川美也子「泣いている子どもが過去の自分に見えて、自分が虐待していたお母さんになったみたいな気持ちになること、すごくよくあるんだけど、どう?」「暴言を吐いてしまう。それって自分がされたことじゃない?」

トラウマの再演 過去に受けたトラウマを繰り返してしまう


「怪物が叫んでいてとにかく怖い・・」「それと一緒にいて。みて」眼球運動(EMDR)「今何がある」「腹が立っています。娘に対してじゃないはず」「本当は誰に対して」「お母さん」「それを覚えていて。でもその時に向けていたら何が起きていた?」「危ないです」「本当に危なかったと思うんですよね。それと一緒にいてあげて。今何がある?」「母に怒りたかったこと。そんなに怒鳴らないで」「ちょっと言葉に出して言ってみて」


白川美也子 「言えなかったという体験が残っている。肉体が体験しないと実感できない。頭で考えて「嫌です」って言ってるんじゃなくて、本当に腹の底から嫌ですって言えるような体験をすることが、すごく必要」


自宅への訪問看護 6才の子の療育 悩みを話してもらう。日常生活から支えていく。「自分に優しく(セルフコンパッション)」


「娘と一緒にお布団に入ることがきつく感じる」「寝床では安心したかったんだよねえ。なぜならば、このことを思い出す。何を思い出す?」「母が過剰にベタベタ、酔っ払って舌を入れてきたりとか、とにかく触られるのが気持ち悪い。拒否したい」「今の自分が今ここでどれくらい拒否できる?」「できます」「感情は」「腹が立ちます」「怒りがあるんだね。言葉はなんていったらいい」「あっちいけ」「泣いていいよ。言えなかったんだね。すごく上手にできたよ」


閉じ込めてきた怒りの感情を吐き出させる。体に刻まれた拒否できない感覚に向き合う。泣く。吐き出す。


「私をお母さんだと思って押してごらん」「あっちいけ!(と復唱しよう)

治療者が持ったテーブルを、患者に押させて、治療者は肩の左右タッピング。

「あっちいけ」主治医の言い方は共感に基づいた力強さをこめている。主治医は、被害を受けた幼少時とは違う「立ち向かう自分」「褒めてくれる理想の母親」の一人二役を演じている。


夏休み 娘と過ごす時間が増えることで頻繁にフラッシュバック。娘をショートステイに預け。距離をとった。「小1」の時、車に足を踏まれた際、めっちゃ怒られた。母親による支配 貴女は一人では生きていけない。無力感。自立を砕かれる体験(本来は母親は「痛かったね」と娘の苦しみに寄り添うべき そうでないと 本当の気持ち「痛い」と、母親(超自我)の指示「痛くない!」がぶつかって解離の引き金となる)


子どもが「小1」になって思い出した。娘の成長、自立がトリガー。たびたび不調になることにトラウマが関係している。母に信じてもらいたかった。娘を信じることもできない。私みたいに貴女もきっとダメでしょって思ってしまう。「すごいことに気づいたね。大事なテーマだったね


過去に支配されない自分になる。私は母ではないし、娘はその時の私ではない。今ここでどうするかは自分で選べる。ということを言い聞かせたい。

事実としてあったことは変わらないが、その意味づけが変わる。今にしか私はいないから、過去は、今の自分がどう捉えるかで変えられるもの。どうにでも選択できる。




以下は、看護学生に、この番組の感想を書いてもらい、それに対してコメントした内容です。


  トラウマインフォームドケアはすべての医療現場で大切です。信頼できる看護師や医師がいて、安全な空間が保証されていなければ、どうしてトラウマと向き合えるでしょうか。小さなトラウマは誰でも体験します。「過去の事実の意味付けを変える」ということは、支えてくれる親兄弟や仲間、友人が居てこそ成し遂げることができます。

  子どもが痛い思いをしたとき、痛かったねと共感してもらえると、それが安全基地になり、将来、パワハラ上司の言いなりにならなくてもすむかもしれません。逆に、親に相談すと、もっと大変なことになる経験をして育った人は、頼る人(安全基地)がないので、いじめっ子やパワハラ上司に逆らえないかもしれません。

  勇気を持って断らないと、相手はつけあがります。学校ならいじめ、職場ならパワハラや性加害に容易につながります。病院でもパワハラが黙認されていることはあります。長く働いてる人の横暴を止めるのは面倒くさいから、新人が被害に遭っても黙認されるのです。

 そういった被害を受けそうになったら、初期に声を上げる。看護師免許を持っていたら食いっぱぐれはありません。勇気を出して。友達や家族と信頼しあい尊敬しあう関係を築いてください。


 体験としてトラウマが残り続ける。その時の風景、体の痛みなどと記憶が一緒に真空パックされて無意識の中にしまわれて分からなくなってしまいます。すると、自己同一性(アイディンティティ)、自分は自分であって他人ではない。過去から現在までずっと自分であるということの内、過去から現在までの道筋が立たれてしまいます。ある一時期の記憶がないのは、自分が自分ではないことになってしまいます。

 だから安全な場所で失われた記憶を徐々に解凍し再生し、失われていた記憶をもう一度はめ込む。それは身体が「もう安全なんだ」と覚えなおす作業とともに進んでいきます。

 「その感情をもっておいて」。この一言に無限大の重みがあります。もう一度、その時のつらい感情と記憶を取り戻すことが、虐待や暴力に打ち勝ち、尊厳を取り戻すことです。


 一般に会話できるようになる前、3歳以前の記憶には索引(インデックス)がついていません。なぜなら言葉が無かったから。でも3歳以前の記憶がないのかといえばそうではなく、身体感覚と結びついてランダムに格納されています。衝撃が強すぎて大きなトラウマになった記憶も身体感覚と結びついて、時に無意識の海に沈んでいます。子どものころ好きだった歌と当時の記憶がセットで思い出されるのも同じですね。

 PTSDでは被害時の感情が冷凍保存される。だから過去と今が重なります。そこまでではなくても、私たちの悲しみも喜びも過去から現在に芋づる式につながっています。その感情を掘り起こすのがEMDRやボディコネクトセラピーです。


 誰かに泣いていいよと言われる安心できる場所でないと泣けないです。性加害者の前では涙は出ません。恋人や友人の前だから泣けてきます。語れるまで語らせない。語ることができるということは、そのトラウマの衝撃がある程度和らいだということです。統合失調症の妄想でも、最初は語ることすらできません。ひたすら恐怖するばかりなのです。

 PTSDでも統合失調症でも、かかわるときの距離感、表情、声のトーンはものすごく大切。初歩にして究極です。

 安心して自分の思いを自分のペースで話せる空間作り、安心感の提供はすべての患者さんに必要です。トラウマ反応や病状は弱さではなく、心に身につけた反応で、自閉症のこだわり、統合失調症の妄想も、本来は自分を守るための手段です。自閉症の人がこだわり行動で周囲の情報をシャットアウトしたり、統合失調症の人が、自分の脳の病気ではなく、外部から嫌がらせをされているのだと思うことでかりそめの安定を得ている場合があります。

 フラッシュバック対処はマインドフルネスの理論と重なります。「それは過去であり、今は起こっていない」ことを治療者と確かめる。周囲を見回したり、歩いたりして、今は安全で危なくないと確かめる。治療者は、患者の気持ちが今、過去にあるのか、現在にあるのか、把握し(「今なにがある?なにが見える?」)、患者のペースを確かめて、同じ速度で歩んでいかないといけません。でないと患者さんは子どものころ、お父さんお母さんに置いていかれてしまったときと同じ気持ちになってしまいます。「患者の身になろうとすること」は、すべての医療のアルファでありオメガです。

 

 患者さんの言う言葉全てに意味がある。例えば、現在のことを言っているようで、過去のトラウマを訴えている場合があります。必要ないのに執拗に入院させてくれと訴える患者さんが、本人も気づいていないけれど、幼いころ母に抱いてもらえなかった記憶を思い出し、母の代わりに受け入れてほしいと要求していたり。

 トラウマに限らず過去の出来事は現在にすべてつながっています。今、上司や先生に対して不快に感じる気持ちは、例えば過去にいじめっ子に嫌と言えなかった経験と結びついていたりします。これは精神分析の一番大切なポイントでもあります。「精神疾患は誰でもなる可能性がある」。体験として感じられたらすごい気付きです。

 虐待は連鎖しますが、誰かが克服して、自分の子どもには寂しい思いをさせないようにしたい。でも一人では無理です。一人でもいいから本音で話し合える友人を作りましょう。いざというとき相談できる先生も見定めてください。言葉に出せたということは、つらいできごとを外在化、外に出せた。過去の出来事として客観化できたということかもしれません。

 まず、相手の悲しみ、つらさをそのまま受け止めないと、受け止めてくれる治療者でないと、言ってる言葉に説得力がないですよね。ただのお説教が意味ないのは、相手の悲しみ、自分はダメだという気持ちに寄り添っていないからです。

 被害を受けても、受け止めてくれた母がいてくれたら。いじめられたときに「恥ずかしい。保育園の先生に言いに行くなんて。こんなこと二度とお母さんにさせないで」と母に言われたら嫌ですよね。自分が悪いって思ってしまう。

 虐待被害者は、加害者ではなく、自分が悪い。自分が弱いから、断れなかったから悪いと思いがちです。でもそうではない。虐めるほうが悪いに決まっています。

 「もう忘れなよ」というアドバイスは、当事者が一番そうしたいと思っているのにできないことです。うつ病の人は、がんばって働きたいと思ってもできないから「がんばれ」と言われるのが苦痛なのと同じです。


 子育てにおいても、厳しさに裏打ちされた優しさが大切です。甘やかされるばかりではなく、相手のためを思って制限をかけることも必要です。優しさと、相手を思った厳しさが必要。

 かつて愛着障害の高校生女子で、父子家庭で、父親が「モーニング娘。のDVDを観たいから静かにしろ」という風に怒る家庭で育った娘がいました。父親が怒るのは、あくまで娘の安全や将来を守るためでなくてはなりません。自分の楽しみのためではないです。

 記憶は全て無意識でつながっています。父親に愛されないで育つと、恋人がちょっとよそ見をしたぐらいでも「私は無視されてる」と被害的に怒ってしまうかもしれません。


 トラウマの自己治療は難しいです。前提として、誰かに認めてもらう。「その時は仕方なかった」と受容される必要があります。もう一度お母さんやお父さんに抱きしめてもらうように。カオリさんが自分から児童相談所にSOSを出したように、自分の弱さを認めることも強さのうちです。他者に認めてもらう、保証してもらうことは大切です。だから赤ちゃんは最初の8か月は、お母さんに完全受容される体験が必要なのです。

 どんな形でも、加害者にNOという、抗う気持ちがあるかないかで、PTSDの発症率、遷延率は変わるそうです。嫌なことを自分のせいにする。そのほうが一時的には楽です。そしてNOが言えなくなる。その負の連鎖。チャレンジを避けようとする心理は誰にでもあります。勇気を持ってNOと言う。身体で実感する、腹の底から笑うような体験を忘れないでください。


 ACE(小児期逆境体験)はその人の免疫力を弱めたり、飲酒や喫煙率を高めるので、当然、癌の発生率も高めます。今を今として感じる、リラックスすることは、最近はマインドフルネスという言葉で心理臨床で流行っています。

 過去の後悔や未来の不安ではなく、今を変えていく。今は怖い相手はいない。未来も自分で変えていける。それをマインドフルネスと言いますが、要するに仏教の悟りです。

 そのことを胸において話を聴く。相手に流されないように、自分の場所をキープする。そこが安全な場所になります。患者さんは放っておくと、すぐに過去のつらい出来事にタイムスリップしてしまいます。

 過去の悪い思い出を思い出した時、例えば、自分は「小学生ではない。もう大人の体だ」とボディスキャンをする。今なら、悪い奴をやっつけることができる。今は子どものころの言い返せなかった私ではないと考える。それを信頼できる人と共有する。全て精神療法の一番大切なことです。言葉ではないです。


 トラウマは社会全体の問題です。日常生活を静かに破壊していく。トラウマの再演、反復強迫、虐待の連鎖、色々な言い方ができますが、一番日常的なものは八つ当たりです。職場で怒られた嫌な気持ちを、何でも許してくれる配偶者や恋人にぶつけてしまう。心当たりありませんか。世界規模で見れば、今も中東やウクライナや中国の周辺で進行していること。戦争です。人類同士で憎しみ合い、戦争で受けた心の傷が子ども、孫へと連鎖していく。

 感情が身体反応と結びついているのは、内科的にも重要です。PTSDは戦争帰還兵の研究から出てきた概念ですが、あきらめずに自分なりのやり方で抵抗した。それも仲間を大切にして(上司の命令は無視してでも)生き残った人ほど、PTSDにならなかったと言います。成功体験になったからです。

 トラウマと戦う戦友が大切。まさにPTSD研究はベトナム戦争の帰還兵から始まったのですが、上司の無茶な命令に逆らってでも仲間で団結して生きる道を模索した兵士は、優位にPTSDの発症率が低かったそうです。

 オバマ大統領が夢中になった中国のSF小説「三体」第2部で、日本の小説「銀河英雄伝説」のセリフが引用されているのですが、その内容がまさにそれです。「かかっているのはたかが国家の存亡だ。個人の自由と権利に比べればたいしたことじゃない」

 どこまで行っても私たちは他人にはなれないから、完璧に分かりあうことはできません。まず、分かり合えないことを分かり合う必要があります。そして、つらい出来事を話してくれた勇気をたたえる気持ちを持ち続けてください。自分を大切にできないと、他者を思いやることはとうていできません。みなさん。まず何より最初に自分を大切にして、よい医療者になってください。