Toin Base Mとあれこれ話その1 2026年2月7日(土)斉藤シラベ/佐藤紳平/かわらかの/穂乃実/タナジュン そして
行きつけの東員町のライブバーToin Base Mにて、2026年2月7日(土)斉藤シラベ/佐藤紳平/かわらかの/穂乃実/タナジュン
一番手は三河のクラシックギター弾き、穂乃実さん。静かで少ない音数で、最大限の感情を弾き出すギター。アルバム未収録の洗濯機の歌で、途中のガタガタ音のギター間奏は、役目を終えた洗濯機が止まっていく瞬間を表しているんだと気づけたのが嬉しかった。珠玉の名曲「コロポックル物語」もそうだけど、彼女の歌には、日本各地の八百万の神々がいて、その辺に落ちている石ころにも神さまがいて、壊れかけた洗濯機にもつくもがみが宿っているんだと信じたくなります。
二番手は、四日市からいらした、タナジュンさん。元々ギターバンドでアメリカンロックをされていて、でも、この店に出るときはピアノ弾き語りを開拓されているとか。ルーツの一つはチューリップだそうですが、超個人的にはアメリカンロック時代の宇都宮隆(TM Network)が歌うバラードを想起させる美声。というか、St. Vincentとかサニーデイサービスとか普通に聴かれるそうで、納得ではあるものの、振り幅の広さに驚かされました。
三番手、神戸から、かわらかのさん。アルバムを作ってから初めて拝聴。当初「星屑レイニー」はまだ音源にはしないと聴いていましたが、割と早くアルバムに入れてくれて、今回の演奏も素晴らしかった。この曲や「化け物」が聴けたのは嬉しかった。可愛らしい外見とはギャップがありすぎるくらい情念の歌を、後味悪くない形で表現するのは才能。4月に大阪でライブバーでプラネタリウムを表現するイベントをされるそうですが、海とか、プラネタリウムとか安心して寝ちゃいますよねって、穂乃実さんの「静かで寝ちゃいますよね」みたいな言葉を引き継いで言われましたが、宇宙とか海とかって子宮、お母さんのお腹の中と同じだからかな。
四番手、白髪のジャズピアニスト、佐藤紳平さんは福島から。この演奏を聴いて、初めて少しだけジャズとかスイングってものが理解できた気がしました。それくらい革命。ジャズって、ロックでも演歌でもJ-POPでもなんでも取り込んでしまう。自由に揺れているようで、その演者にとってのベース(基準点)があって、そこから何処へでも行ける。ゲスト・ヴォーカリストの成田のぞみさんが、夢で見た内容を歌うと仰ったけど、そう、夢や連想に近い。夢や無意識の世界では、本来は交わらない音楽ジャンル、解決しない問題も一緒くたにして解いてしまう。アウフヘーベンする。枠を壊して、みんな一緒にする。体が勝手に無意識に動くユーモア。
トリを務めたのは福島出身、大阪在住の斉藤シラベさん。ブルースを直接的に感じさせる声と表現力。店長が「彼は恰好(ジャージ姿)以外はええやろ」と仰ったけど(笑)。とても内省的だけど、同時に人の心を鼓舞する歌。だから良い意味で、深く自己の内面を見つめる尾崎豊、と感じました。尾崎豊って要するに日本のブルース・スプリングスティーンだし。そういうことを突き詰めると、けっこうつらくなるんじゃないかな・・・人を楽しませるのって偉業だけど、本人は死ぬほど頑張っているんだと思います。
穂乃実さんの演奏を初めて観たのは、昨年2025年7月26日(土)のイベンター神村さん企画。後で伺ったのですが、神村さんは山梨のシンガーソングライターaroさんのファンで、彼女の歌を軸にパズルのピースを組み合わせるように出演者にオファーしたとか・・・。出演者は、aroさんの他に、聞間拓(ききまたく)さん、河野圭佑さん、穂乃実さん、矢野絢子さん、ヒサ絵さんの6組で、それが神村さんの意図かどうかはわからないけれど、なんとなく家族の関係とか、失われたもの、亡くなった親への思いとか、自分と大切な誰か、向かい合うその関係。そういったイメージを6組の出演者が相互に補完し合っていく。そんな流れを感じたのを覚えています。神村さんのイベントはまた観たいな。
2025年9月919日(金)Toin Base Mでも、aroさんの演奏を拝聴しました。あくまで私見だけど、彼女は自身の内側から溢れ出す情熱を、言葉本来の意味としてのフォーク・ミュージックとして叩き出していたように感じました。
彼女は、「アウトプットするよりも、その表現を受け止める(インプット)するほうが大変」というような表現で、この日の客に感謝を伝えていたけど、そういった感慨を抱くということ自体が、つまり、これまで彼女にとって正体不明だった、彼女の内にある情熱の、真の正体を掴み始めたということなのではないかと思いました。誰だって、自分の無意識にあるものは死ぬまでほとんどわからないままです。
7月の神村さん企画では、自身の音楽的ルーツや、生い立ちについて語りながら演奏されていて、表現する理由が明確に言語化されたから、この日の演奏は、今までの縛りや決め事を壊して、「今日はこの曲をやりたい」「でもできない」「でもやる」といった逡巡が生まれたように見えました。
彼女の細かい事情は知らないので、あくまで一般論や私自身の経験からの話ですが、父親とか教師が憎い、とだけ思っている時は底知れないパワーが出てくるけど、向かい合えば向かい合うほど、相手にも事情があったり、相手の別の面も無視できなくなったりして、知りすぎたからこそ分からない、できないことも出てきます。それでも、自分で判断する、決断する。これをやりたいと決める。わたしとあなたの関係。そこから生まれるもの。そうして表現がさらに深まっていく。aroさんの最近の演奏は、激しく、オリジナルで主観的な音楽である前提で、その上に、不思議な客観性、俯瞰や達観が加わってきているように感じます。
TOIN BASEMは、名古屋から近鉄/JRで三重県の桑名へ。隣接する三岐鉄道北勢線「西桑名」駅から「穴太(あのう)」下車。南へ徒歩8分。音が良い店です。スパゲティとかピザとかも食べられます。

