アルコール依存症 ご本人への説明

飲酒のコントロールができない病気です。

飲酒への耐えがたい渇望。泥酔に至るまで飲酒が止められず多量の飲酒を繰り返し飲酒のコントロールができない。飲酒にすべての関心が集まり、以前熱心だった仕事や趣味への興味を失ってしまいます。


否認の病といわれます。

自分が病気であると認めることができない病気です。逆に病気だと自覚できることが回復の過程です。


慢性的に進行します。

健康、仕事、家族など多くのものを失います。身体疾患の進行や自殺により半数近くが突然死で死亡時の平均年齢は50歳前後です。


回復の秘訣は『人のつながりを保ち続けること』です。


医療機関や自分だけの力では病気の進行を止めることはできません。仲間の群れからはぐれないことが大切です。孤立や不安、疲れは病気を悪化させます。


家族や友人や、仲間と助け合い、共に回復していくことが必要です。



アルコール依存症とは酒の飲み方の異常です。

1 いつも飲酒したいと思っている。時、場所、場合、量が社会基準から外れてくる

2ほどよい量で飲酒を切り上げることが出来ない(飲酒量をコントロールできない)

3酒を止めようと思いつつ飲んでしまう(強迫的飲酒)

4 離脱症状を抑えるために飲む(必ずしも楽しく飲んでいるわけではない)

5隠れて飲む。朝酒をする。酒で体を悪くして生命の危険があるのに飲む。



「酔い」とはアルコールが短期的に脳に及ぼす影響です。中毒とは薬物が体内にとり込まれて起きる生体の変化です。

 急性アルコール中毒は酒に酔い、しだいに脳が麻痺していく状態です。最初は気分が良く理性による抑制がはずれ、ふだんはできないような行動もできるようになります。

 しかし進行すると意識障害、呼吸抑制から死に至ることさえあります。


なぜ酔うことが必要なのでしょうか。

 社交の手段として機会飲酒、職業上の必要性で飲む場合が最も一般的です。しかし生活上の不安、苛々や不眠が原因でそれから逃れるために飲酒することがあり、その場合はどんどん飲酒量が増え危険です。アルコールはいっとき不安を忘れさせてくれますが断酒時にもっと大きな不安が反動となって帰ってきますし、アルコールは睡眠をもたらしますが、その質が悪く中途覚醒や悪夢の原因になります。それが苦しくてどんどん飲酒量が増えてしまいます。


人生において、「アルコールによる酔い」以外に酔う体験はあります。

生きがいを持ち、「物に酔う」ことや大切な友人や恋人との関係、「人に酔う」ことが挙げられます。アルコール依存症から抜け出すためにはアルコール以外の「二つの酔い」を取り戻すことが近道です。


お酒を飲んでばかりで、生きがいとなる趣味や仕事を忘れたり(「物に酔う」ことの消失)、

お酒で判断力が鈍り、事故を起こしたり、家族に暴力を振るう(「人に酔う」ことの消失)ことが積み重なってだんだんアルコール依存症から抜け出せなくなっていきます。



依存には精神依存と身体依存があります。

精神依存

酒を飲まずにいられない状態をさします。元々は楽しい機会飲酒にすぎなかったものが、次第にお酒を飲むこと自体が目的となり、量や頻度がどんどん増していき、自分ではコントロールできなくなります。

身体依存

アルコールが入っていないと脳機能のバランスがとれない状態を身体依存といいます。

何年もの間毎日飲酒していると、脳がアルコールの抑制作用に対してバランスをとるため過剰興奮するようになっていきます。

長期的な飲酒の後、飲酒を止め、体の中のアルコール血中濃度が下がってアルコールによる脳の抑制がなくなると、脳の過剰興奮だけが残って様々な症状が起こってきます。これを離脱症状といいます。


小離脱症状(断酒後24~36時間)

不安、手指の震え、発汗、悪寒、発熱、けいれん発作など


大離脱症状(振戦せん妄)(断酒後72~96時間)

著しい振戦、発汗、発熱、見当識障害、幻覚、興奮。

壁の模様が何かの姿に見えるなどの錯覚をしたり、迫害的内容の幻聴が聞こえたり、虫や小動物の姿が見える幻視のために虫取り動作を続けることもあります。。


こういった離脱症状を抑えるために、アルコールと同じ作用をするベンゾジアゼピン系薬剤を一時的に内服していただくことがあります。脱水、低栄養の予防のため、ビタミン剤入りの輸液を行うことがあります。


禁酒を継続していただくために

1 病気であることを認める

アルコール依存症であることを自覚し医療機関を受診する。

酒をすすめる周囲の人々に理解してもらうために「酒は飲めないこと」をはっきり口にする。抗酒薬の服用は自らの飲酒欲求に歯止めをかけると同時に、家族の前で服用することで「飲まない意志」をアピールできる。


2 自助グループ(断酒会、AA)に参加する

断酒を続けている人や、同じ病気の人と出会うことが断酒の意志を継続する助けとなる。

体験発表を聞いたり自分の体験を話すことで酒害の恐ろしさや断酒の必要性を自覚できる。

仲間をつくり、暇をつぶしたり孤独を癒すことができる。


3 今日1日飲まないことを目標とする

一生飲まない!といった大きな目標を掲げると気持ちが滅入ってしまいます。

それよりも今日1日飲まないことを目標として、一日一日達成感を感じることで自信をつけてください。「今日も一日飲まずにすごせた」ことが満足感や周囲との信頼形成につながり明日への生きるエネルギーとなります。



具体的対策

①飲酒と関係のある事柄、場所、人を避ける

TVで野球観戦するとき必ずビールを飲んでしまうのなら野球観戦はしない。

結婚式の席上で酒を飲んでしまうなら、結婚式には招かれても行かない

家族、友人が酒を勧めるのなら、断る本人の意思のみならず、家族友人の認識も改める


②飲酒の原因を探り、それを避ける

不眠をまぎらすために飲酒してしまうなら、不眠を解決するため早起きや運動を心がける。必要なら睡眠薬を飲む。

人前で意見を言えず、酒の力を借りて言いたいことを言う。怒りや悲しみをまぎらすために酒を飲むのなら、自己主張をする練習。怒りや悲しみに対する対処を学ぶ。

昼間することがなくて飲酒するのなら、読書でもスポーツでも何か熱中することを探す

あるいは断酒会で意思確認、地域の行事等で気晴らしをする。


再飲酒(スリップ)

何年断酒に成功していてもあるとき突然スリップしてしまうことがあります。むしろ長年断酒が続いていて「もう大丈夫」と思ってしまう頃が危険です。

10年以上断酒して自助グループの代表を務めていた方がたった一度の飲酒をきっかけに再び大量飲酒を続けてしまい自殺された例もあります。このようにスリップすると絶望し自分を責めたり死んでしまいたくなるものです。


ここでは失敗を素直に認める勇気が必要です。1度再飲酒したことで失敗とはせず、誰にでもあること。一度飲んでしまったから自分はだめだと思わないことです。

そして失敗したきっかけや原因を冷静に考えて同じ失敗を繰り返さないようにすることが大切です。


スリップの兆候

①不安定な精神状態(不安、抑うつ、焦燥、自信のなさ)

②身体的不調(不眠、疲れ、身体疾患)

③生活上の問題(仕事が忙しい。経済的に苦しい。家族や友人との衝突、不仲)

こういった兆候を感じたらスリップする前に誰かに相談しましょう。主治医や自助グループに連絡しましょう。


否認をしないことが最も大切です。

どうか、酒を飲み続けてしまうことを何らかの理由で正当化してしまわないで下さい。

例えば、仕事がたまたま忙しくて疲れていた。家族の不幸や事故が重なり精神的に参っていた。などと理由をつけて飲酒を正当化していれば依存症からは抜け出せません。そういった問題と飲酒は切り離して考えましょう。

問題が重なって精神状態が不安定ならば、だれかに相談したり、ストレス解消する別の方法を考えるように頭を切り替えることが必要です。


アルコール依存症は何を病むのか

1病気によって変えられてしまうこと

感情が損なわれる(うつに陥る)

生き生きとした自然な感情が失われる。喜びや楽しみを素直に感じることが少なくなり、悲しみや怒りは酒の力を借りて爆発させるようになる。

判断力が損なわれる

「このままではまずい」と思いながらも軌道修正することが困難になっていく。

飲酒欲求のために健康な判断力が働かなくなり状況判断ができなくなります。


価値観の逆転

「自分の金で飲んで体を壊して何が悪い」「飲んで死ねれば本望」。

自分にとって何が大切かという基本的な価値観が逆転する。本来は生きる上で大切なものが価値を失い、酒がすべてに優先するようになっていく。


酩酊すると気分や衝動のコントロールができなくなり、攻撃が外へ向かうと暴言、暴力になり、内へ向かうと自殺行動になります。考えが視野狭窄に陥って全体を見渡せなくなり適切な情報処理、判断ができなくなっているのです。

飲み続けるとしだいに脳が萎縮していき、不眠、抑うつ、集中力低下、判断力低下につながります。


2失ったものをどうするか

失ったものにはすぐ取り戻せるものと容易には取り戻せないものがあります。

体の健康は断酒を続けることである程度は取り戻せます。少なくとも悪化は防げる。

人間関係や社会的信用はなかなか自分の思い通りには取り戻せません。


取り戻しにくいものほど、早く取り戻そうとあせるものですが、それよりもまずは自分の心と体の回復を大切にして一歩一歩解決していくことが結果的には近道となります。