TOIN BASE Mとあれこれ話その7 坂田明SOSと穂乃実さん

  2026/6/28三重県東員町Toin Base Mにて。

 豊川から来た、フォークギター弾き語り、穂乃実さん。まだ作っている途中だと前置きして、「晩酌」という曲を披露しました。

 繰り返される 「いつかあなたと暮らせるように、ここで待っている」という歌詞と、演奏の間(ま)、荘厳さから、私は、小松左京の「果てしなき流れの果に」というSF小説を思い出しました。生命誕生の秘密に絡む、果てしない時空を越えた闘いを続ける主人公を、ずっと待っている恋人のことを。


 夫を亡くした後、「あの世が見える」などといった激しい幻覚を呈した60代女性がいました。「夫を最期までケアできたのだろうか」「子どもを産んであげられなかった」といった思いのかけらが、幻覚の隙間から少しずつ溢れ落ちました。

 断片を拾い集め、推測して、つなぎ合わせていくうちに、症状が消え、数週間で抗精神病薬も必要なくなりました。


 親戚の子を亡くした70代女性。その子と同じ痛みが生じ、内科、脳神経内科、整形外科などを渡り歩き、たくさんの検査をして、投薬され、良くならないので受診されました。

 訴えを聞きながら、その人の身になっていきます。

「まるで我が子のように可愛がっていたんですね」「ええ。本当に仲良くて」

「ひょっとして、その子の代わりに自分が死ねば良かったと思ったのではないですか?」

「そうです。あの子に私の葬式をしてほしかった」

堰を切ったように話され、数日後には痛みがほとんど無くなったそうです。彼女は過去にタイムスリップして、その子の代わりに死のうとしたのかもしれません。


    例えば、その人の過去に隠されたカギを見つけて、適切なドアを開けると、恋人や失った大切なものが現れます。でも、それができないと、ひたすら薬で苦悩を抑え続けるしかないかもしれません。

(症例の話はいくつかの特徴的なパターンを抽出して再構成したものです)


 

   

 先日(2026/6/5)、同じくToin Base Mで、坂田明の演奏を観ました。

「汽車の窓から見える風景だと思って。そのうち終わります。安心してください」

淡々とした語りの後に、演奏が始まりました。デューク・エリントン「In a Sentimental Mood」から。

「日常でみなさんがしていることは全て即興。それを我々は楽器でやってる。面白いか面白くないか、好きか嫌いか、しょうがないね」

 サックス、ピアノ、ドラムのインプロバイゼーションは、前衛的なエレクトロロックのようでした。ピアノは大森菜々。ドラムは坂田学。彼はPolarisのドラマーだったんですね。


「行き当たりばったり。不安になってきますね。不安を解消する」

と、演奏したのがカザルスの鳥の歌。この2曲は坂田明SOSとしてのファースト・アルバムから。このアルバムのミックスとマスタリングはJim O’Rourke。ジムさんは前野健太や石橋英子と共によく四日市のラジカフェに来ていたので、ぜひいつか坂田明と桑名に来てほしいです。ジムさんが好きそうな昭和のビル「桑栄メイト」が無くなったのが残念。


「役立たず」という曲について説明されて

「歌っている時、吹いてる時より、座ってリズムを刻んでいる時が大事。そういう歌ですよ。世の中、役に立たない人がいるからうまくいく。ぼうっとしてるやつがいるから」


ライブを観た後、坂田明『私説ミジンコ大全』を読みました。本人のミジンコ飼育の話、学者との対談で構成されていて、遺伝子についての話の中で、一見役に立たない遺伝子にも何らかの役目がある。役立たずという役目でもいいじゃないかという趣旨のことを話されていました。

そのあとがきでは、「私はジャズミュージシャンにはなりきれない。より適当な言葉はパンク。人生がパンクなのかもしれない。音楽が目的ではなく、人間であること、北極星のような人間になること」というふうに書かれていました。


「私たちには寿命を生きる役目がある。時に自分で死んじゃったり殺したり。それはやめましょう」と語って、「枯れたひまわりのバラード」を演奏。「ひまわりが枯れた時に黄金の時を迎える」とも。

終盤、坂田明が歌った「死んだ男の残したものは」がめちゃくちゃ良くて、調べたら、これは武満 徹作曲の反戦歌なんですね。歌詞も刺さると思ったら谷川俊太郎作詞。



Toin Base Mは、名古屋から近鉄/JRで急行/快速で約20分の三重県の桑名へ。隣接する三岐鉄道北勢線「西桑名」駅から「穴太(あのう)」下車。南へ徒歩8分。音が良い空間。スパゲティとかピザとかも食べられます。

2024年7月に桑名から隣町の東員町に移転。原田真二、ファンキー末吉(爆風スランプ)、ギターパンダ(DEEP & BITES、忌野清志郎 & 2・3'S等)、ワタナベマモル(グレイトリッチーズ)といったロック・レジェンドなど、素晴らしいミュージシャンが日々出演しています。