ハグ林さんとの対話 ~ TOIN BASE Mとあれこれ話その9

 先日(2026年7月17日)Toin Base Mで初ライブを行った、三重県は、伊勢の至宝的フォーク・シンガー、ハグ林(はぐばやし)さん。当日の会話と、メールでのやり取りを再構成してインタビュー仕立てにしてみました。

 特に予備知識なく彼の演奏を聴いたけど、若き日の峯田和伸の弾き語りを思い出してしまった。逃れようもなく、抗いようもなく、気付いたら俺はなんとなく夏だった。


アルバム通販ページ(伊勢MOLE FACTORY)


Q ライブお疲れ様でした。すごく沁みて。なんだか、20年前に今池ハックフィンで観た(銀杏BOYZ)峯田和伸の弾き語りを思い出しました。

ハグ林 ありがとうございます。フォロワーですから(笑)

Q 会場(Toin Base M)の壁レコも眺めてらっしゃいましたが、ハグ林さんは峯田さんみたいにレコードの時代の音楽を聴いているクチでしょうか。

ハグ林 レコードはあんまり持ってないのですが、峯田さんのブログとかで紹介されていた音楽を聴いて嗜好を深めてきたので、影響を受けているのは間違いないかと思います。

中でも60年代あたりの日本のフォークは衝撃的で、大学生のころ友部正人を聴いて弾き語りをはじめました。

(後で知ったが、この曲を岡崎体育がポストしていたんですね。そしてタイトルはGOING STEADY「さくらの唄」へのオマージュ)


Q だからハーモニカ吹かれるんですね。最後に演奏された「ノヒラくんっ!」でサニーデイ・サービス「青春狂走曲」が思い浮かびました。60-70年代のフォークや歌謡曲への愛着があった上でパンク以降の音を鳴らしているように感じたからだと思います。

ハグ林 ほめすぎですよ。でも、サニーデイも峯田さんも確実に日本のフォークの系譜を継いでいますもんね。


Q アルバムもカッコいいですね。「駿河屋forever」の歌詞で、「めぞん一刻」が出てきて嬉しかった。今でも読むんですね。私が中学生の頃、古本で購入してほぼ一気読みしたのを思い出しました。

それと、1stアルバム「十九歳のメモ」は中上健次「十九歳の地図」からなんですね。Toin Base Mマスターの推しの小説家でもあります。

ハグ林 「めぞん一刻」いいですよねー。普遍の名作です。モラトリアムを消費する学生の自分には刺さりました。「十九歳の地図」にも気付かれるとは…… 恐れ入ります!これは漫画家の新井英樹がアシスタントに必ず見せる映画と何かで読んだので映画を観てみました。中上健次の墓が三重と和歌山の県境にあるのでいつか行ってみたいですね。


Q 新井英樹「ワールドイズマイン」は、20年以上前に、syrup16g好きな友達に勧められて、結局読んでませんでしたが、読みたくなってきました。

ハグ林 ぼくもちょうど20年前の高校生の頃に読んで、大変衝撃を受けた漫画です。深作欣二が映画化を企画していたそうですが、金がかかりすぎるから頓挫したみたいな話も聞きました。


Q 中上健次に戻ると、最近の芥川賞作家、宇佐見りんがファンだと公言していたり、古くは尾崎豊のデビューアルバム「17歳の地図」。尾崎豊のヒット曲はブルース・スプリングスティーンのオマージュばかりだったり。そのボスはトランプ政権の時代に今だにアメリカの精神的支柱ですね。中上健次もいまだ重要なアイコンです。

ハグ林 そうそう、尾崎のアルバム名に触れる方はたまに見えましたね。スプリングスティーンは「We are the world」での独特の歌唱で、勝手にマッチョイズムみたいな認識をしていたのですが、ブルー・カラーのフォークシンガー的な側面もあったとは知りませんでした。


Q 私も最初はプルース・スプリングスティーンもブルーハーツもマッチョイズムだと勘違いしていました。しかし、村上春樹が彼の大ファンを公言していたり、LGBTQ+文化に詳しい音楽ライターの木津 毅がボスの話を熱心にしていて。一見マッチョ的な態度は、彼の父親のイメージを逆説的に身に纏ったものだそうです。

ハグ林 ブルーハーツとか何故かヤンキーも好きですもんね。泉谷しげるや長渕剛もマッチョなイメージがありますけど、初期はすごく繊細なフォークソングを書いてて好きになりました。

Q 泉谷の「春夏秋冬」は名曲ですよね。2000年代のインディー・バンドが意外に泉谷を支持していて知りました。

ハグ林 あと、「あいつらの好きなブルーハーツとおれの好きなブルーハーツは違うんだ!」みたいなジレンマを感じた記憶があります(笑) 「春夏秋冬」名曲ですよね。「春のからっ風」とかもしょげてて大変良いです。


Q ブルーハーツのマーシーは友部正人からの影響を公言していますし、峯田さんも友部正人からプライマル・スクリームまで参照していただろうと思うのですが、そういえば、「ノヒラくんっ!」(当日のライブ映像)からは、サニーディだけでなく、はっぴいえんどの「暗闇坂むささび変化」も連想しました。

ハグ林 峯田さんには、フォークや昭和歌謡からニュー・ウェイヴ、ハード・コアまで教えてもらいました。弾き語りで言えば、自分のスタイルは加地等にも影響を受けているかもしれません。

 曽我部さんとかはっぴいえんどは、自分には真似できないセンスの人たちと思っていたので、とても意外な感想です。


Q 加地等の名前は、前野健太との交流で知りました。豊田道倫とか三沢洋紀も好きですね。なんとなく、少し分かる気がします。その周辺のミュージシャンでは、三輪二郎の新譜がROSE RECORDSからリリースされますが、ハグ林さんが混ざっても、違和感は別に違和感はない気がします。

ハグ林 そうですかねー。自分はROSE RECORDSのようなレーベルにはふさわしくないだろうなと、よく考えていました…… ローファイ感や音楽的センスと技巧がどうしてもないという自己評価です。


Q 曽我部さんが、遠藤賢司に、「どうやったらエンケンさんみたいにいくつになっても良い歌が歌えますか」「それはね、曽我部くん、君のこと好きだよって、ただそれだけ思って歌えば良いんだよ」って。今夜のおかずは?とか考えちゃ今夜のおかずがちょっと入った「好きだよ」になっちゃう。だから「好きだよ」ってそれだけを思うんだ。

 私はこのエピソード大好きなんですが、ハグ林さんの音楽からは、このエンケンイズムというか、フォーク原理主義みたいなものを感じます。

ハグ林 エンケンさんいいことを言いますね〜。全部芸の肥やしにしろ的な、人生で音楽を、音楽で人生を肯定するスケールの大きさと、それを「きみのことが好き」に帰結させるパーソナルな感覚に力をもらった気がします。今にして思えば、だからこそ、そこに届かない自分、みたいなコンプレックスもあったのかもしれません。

Q でも本当にその通りだったとしたら、あの外村伸二さんが、AZUMIや友部正人を招いたイベントに出演させたりしないでしょう!「ハグちゃん、ちゃんとやってるじゃん」って外村さんが言うてくれたんでしょう? 

 友部さんの前座でも最後に演奏した「悪いことをしているみたいだ」とかヤバかったもん。ライブでセックスの歌ばかり歌って、生まれたばかりの娘が「ぐれないかなあ」って苦笑してたけど。ぜんぜん、中途半端じゃないでしょう? 


ハグ林 (苦笑) はい、ちゃんとやってます(笑)。

 あまり、どこか、誰かを目指して曲作りをしていないので、そういう分析をいただけると新鮮です。というかライブハウスで久しぶりに音楽の話ができて楽しかったです!案外しないので(笑) 

 またToin Base Mにも呼んでいただけそうなので今後ともよろしくお願いします。




 Toin Base Mは、名古屋から近鉄/JRで急行/快速で約20分の三重県の桑名へ。隣接する三岐鉄道北勢線「西桑名」駅から「穴太(あのう)」下車。南へ徒歩8分。音が良い空間。スパゲティとかピザとかも食べられます。

 2024年7月に桑名から隣町の東員町に移転。原田真二、ファンキー末吉(爆風スランプ)、ギターパンダ(DEEP & BITES、忌野清志郎 & 2・3'S等)、ワタナベマモル(グレイトリッチーズ)といったロック・レジェンドなど、素晴らしいミュージシャンが日々出演しています。