穂乃実さんとの対話 ~ TOIN BASE Mとあれこれ話その10


  クラシックギター弾き語り。愛知県三河在住のシンガー・ソングライター穂乃実さん。

  三重県のToin Base Mに歌いに来てくれた、当日の対話やメールでの意見交換をインタビュー仕立てでまとめてみました。


Q  Toin Base Mでのライブお疲れ様でした。まず、アルバムにも収録されている「コロボックル物語」好きです。偶然でしょうがBob Dylan 『Blonde on Blonde』収録の隠れ名曲「I Want You」を連想しました。淡々とした演奏で、時折入るギター・カッティングのアクセントがグッと来たり。

 「たった一台の安物洗濯機」でクラシックのメロディー(「エリーゼのために」)の間奏で、洗濯機が故障していくさまを表現しているのが分かったときはすごく嬉しかったです。

穂乃実  ありがとうございます。アクセントなど小さなこだわりも気付いていただけて、嬉しいです。押し付けない音楽なだけあって、「癒されました」で終わってしまうことも多いのですが…。

2026年6月28日三重県Toin Base MでのライブPlay List

1.シルバーの車
2.たった一台の安物洗濯機
3.お茶わん
4.晩酌
5.おやすみ
6.コロボックル物語


Q  穂乃実さんの曲は、癒されるような静かなフォーク・ソングとしても聴けるし、奥のほうに情熱を秘めたパンクとして感じることもできると思います。ちょっとした演奏の工夫が心を揺さぶります。

 私にとっては、穂乃実さんのアルバムと、マーシー(真島昌利)のソロを聴くのは近い感覚です。音の大小や、楽器の数ではなく。

穂乃実  「ブルーハーツみたいな音楽とは真逆だよね」と言われたことがあって、その時に違和感を感じたのは覚えています。

Q     言われた方は好意で言われたんでしょうね。

穂乃実  ええ、そうだと思います。ただ、激しいバンドとゆったりアコースティックでは、表面的な表現の仕方は全然違いますけど、自分でもパンクな精神はあると思っています。だから、近い感覚と言っていただけたのは、スッと受け入れることができました。


Q  パンクといえば、『森道市場』や『橋の下音楽祭』といった野外イベントにもよく行かれているんですね。

穂乃実 橋の下は、何というか、現代を生きていると忘れそうになる感覚を思い出させてくれるというか…。行かないと気が済まなくて毎年行っております!


Q  『橋の下音楽祭』は、人間が農耕や祈祷をしたり、自然と深く繋がっていた神話や物語の時代っぽい空気があるような。そんな感覚を忘れたくないのでしょうか。

穂乃実 見透かされてしまっているようですね(笑)。まさに自然や祈祷は、私がなぜか惹かれてしまいずっと向き合い続けているものです。


Q  ふと思ったのですが、小説やドラマのような世界観で演奏するミュージシャンは多いし、一般受けします。でも、現代的な要素が強すぎる人は、どんなに上手くてもどこか物足りない。個人的に好きだなと思わせる演者は、自然や、物語、神話の空気と繋がっている雰囲気がある気がします。

穂乃実  なるほど。わかる気がします。自然や神話だったり、古くから伝わっているものへのリスペクトが感じられる音楽や表現に出会うと、嬉しくなりますね。


Q  インスタのストーリーズで拝見しましたが、たま、友部正人のようなレジェンドから、ミツメや青葉市子のような2000年代以降のミュージシャンまで観に行かれるんですね。そういえば、前回のライブのお客さんが、あなたのことを「青葉市子みたいだと言っていました。

穂乃実  そんな風に言ってくださってたんですね。青葉市子さんは空気感の作り方がとても好きです。


Q  空気感といえば、新曲と言って披露された「晩酌」に驚きました。ミニマルな最小限の音作りなのに全ての感情があるというか。YouTubeのアルゴリズムで紹介されて聴いた外国の方が「Simply stunning. Love from England(息を飲むほど美しい。英国から愛をこめて」とコメントしていてびっくりしました。他にもロシア語でも「素晴らしい」って。

穂乃実  それはとてもうれしいです。外国の方にも受け入れてもらえるなんて。このまま自分らしく歌っていていいんだと思えます。


Q  それこそ青葉市子はBob Dylanのライブ盤でも有名なRoyal Albert Hallでコンサートを成功させていますから、 穂乃実さんも海外で受け入れられる要素があるんだと思います。

穂乃実     言われてみると、青葉市子や、それにたま、ミツメは、似せてるわけではないですが、かなり影響を受けていると思います。


Q  乱暴ですが、スピッツのUKインディーぽさを、USインディーぽく変えたらミツメになると思っていて。穂乃実さんを知らない人に紹介するときは、「スピッツやたまのような曲を、クラシック・ギターで女性が歌っている」と言うと、イメージしやすい気がします。

穂乃実  なるほど、スピッツとミツメの比較はわかる気がします。なんだか恐縮してしまいますね…。なかなか自分の音楽を俯瞰してみるのって難しいので、嬉しい気付きをありがとうございます。


Q  Toin Base Mのマスターも「(穂乃実さんは)たま好きやろうな」と言っていました。マーシーは友部正人をリスペクトしているし、知久さんは友部正人と交流深いそうですね。

穂乃実  知久さんも友部さんも、おふたりともお話しするときにすごくまっすぐな目をされていて、近しいものを感じてしまいます。交流深いのも納得です。


Q  実際に会ってお話しされたんですね! 知久さん、友部さんもそうですが、穂乃実さんの音楽は、日常の些細なこと、例えば、洗濯機が壊れることから、大切な人との出会いや別れ、生き死にまで含めて、想像することができる要素を持っていると思います。

穂乃実  意識していなかったのですが、出会いや別れ、生き死にを想像させる歌は、たしかに多いのかもしれません。わたしは、幸せの中にちょっと寂しさが混ざっているのが好きなんでしょうね。



 (彼女のアルバムは、井上園子の初期音源等も手がけたハンサム判治 のプロデュース

 


 以上、やや前のめりで押しつけがましいインタビュアーであったが、彼女の音楽に対する姿勢を尋ねていくと、そもそも、古代から現代にかけて、人間の営みとしての芸能とは、というテーマにつながっていくようでした。

 特に最後に記した穂乃実さんの言葉、「幸せの中にちょっと寂しさが混ざっているのが好き」から、河合隼雄『しあわせ眼鏡』(現在は『河合隼雄の幸福論』と改題され文庫再発)の最後に収められたエッセイ「音のない音」を思い出しました。

(故・河合先生はユングの分析心理学やカウンセリングを日本に広めた第一人者です)


 その内容を最後に私なりに要約します。


 人間の幸福は、その裏で深い哀しみが支えている。それが無かったら浅いものになってしまう。幸福だけ、ということはない。ちょうど、フルートの音色が、音のない音に支えられているように。

 フルートは、ピアノ等と違って一度に一つの音しか吹けない。しかし、今、出ていない音、これから変化していく音がわかっていないといけない。

 人間関係でも同じ。「哀しいです」という言葉の下に様々な和音がある。音のない音に耳を傾ける態度が、他者を深く理解するために必要。

 フルートで高い音を出すとき、浮ついてしまうというか、体もなんだか上に上がってしまうとダメ。キンキンしてしまう。音が高く上がっていく時には、体の感じは逆にむしろお腹の下のほうへ下がっていって、音を支えなければならない。いわば音にならない低い音が高い音を支えている感じになる。

 人間というものは、調子が良くてただ上昇していると、なんだか浮ついたものになってしまう。上昇を支える下降。しっかりと支え、人生に厚みを与える土台となる力が必要。

 フルートが良い音色を出すためには、音のない音が支えているように、幸福というものも、たとえ他人にはそれだけしか見えないにしても、それが厚みをもつためには、哀しみによって支えられていなくてはならない。




 Toin Base Mは、名古屋から近鉄/JRで急行/快速で約20分の三重県の桑名へ。隣接する三岐鉄道北勢線「西桑名」駅から「穴太(あのう)」下車。南へ徒歩8分。音が良い空間。スパゲティとかピザとかも食べられます。

 2024年7月に桑名から隣町の東員町に移転。原田真二、ファンキー末吉(爆風スランプ)、ギターパンダ(DEEP & BITES、忌野清志郎 & 2・3'S等)、ワタナベマモル(グレイトリッチーズ)といったロック・レジェンドなど、素晴らしいミュージシャンが日々出演しています。