井原裕『「子どもの発達障害」薬はいらない』より
発達特性のある子どもへの家庭での関わり方― 生活習慣を整え、自分らしく社会とつながっていくために
1.まず、睡眠と生活リズムを整える
発達特性のある子どもへの支援では、まず生活習慣、とくに睡眠と生活リズムを整えることが大切です。
睡眠が不足すると、心に余裕がなくなり、不注意、衝動性、不安、イライラ、パニックなどが目立ちやすくなります。もともと持っている発達特性が、睡眠不足によってさらに強く現れることもあります。
薬物療法や特別な訓練を考える前に、毎日の生活を振り返ってみましょう。
睡眠時間の目安は小学生は10時間、中学生は9時間 高校生は8時間
これはあくまで目安です。必要な睡眠時間には個人差があります。日中に眠気が強くないか、朝すっきり起きられるかなども参考にしてください。
特に大切なのは、朝起きる時間をできるだけ一定にすることです。
朝の光を浴びることで体内時計が整いやすくなります。夜間のメラトニン分泌も、朝の光を含む生活リズムの影響を受けます。一般に、朝起きて光を浴びてから約14~16時間後にメラトニンの分泌が始まるとされています。
休日も平日と大きく異なる時間に起きることは避け、生活リズムを保つようにしましょう。
例えば、日曜日の朝になかなか起きられない場合には、無理に叱って起こすだけでなく、子どもが行きたい場所に出かける計画を立ててみる方法があります。
「早く起きなさい」と義務を課すよりも、「今日は楽しみなことがあるから起きよう」と思えるような工夫が役立ちます。
2.自分の個性を大切にしながら、社会との折り合いをつける
発達特性のある子どもに、周囲と同じように振る舞うことを求めすぎる必要はありません。
一方で、自分の個性を大切にすることと、社会の中で他者と一緒に生活することは両立させていく必要があります。
目指すのは、本人の特性を無理に変えることではなく、自分らしさを保ちながら、周囲と折り合いをつけて生活できるようになることです。
そのためには、まず最低限の社会的なマナーから身につけていきましょう。
例えば、挨拶をする、相手の話を聞く、必要なときには「わかりません」「手伝ってください」と伝える、といったことです。
臨機応変な対応が苦手でも、基本的な行動を身につけておくことで、社会生活を送りやすくなります。
ただし、表面的に周囲に合わせることだけを求めると、本人が疲弊したり、自分の気持ちを抑え込んだりすることがあります。挨拶などのマナーを教える一方で、苦手な状況では休憩したり、助けを求めたりできることも大切です。
指示は具体的に、一度に一つずつ
発達特性のある子どもには、曖昧で複数の内容を含む指示よりも、具体的で短い指示が伝わりやすいことがあります。
例えば、
「ちゃんとしなさい」ではなく、「先生の話を聞いて、必要なことをノートに書こう」
「忘れ物をしないように」ではなく、「明日の持ち物をメモに書いて、ランドセルに入れよう」
「周りを見て行動しなさい」ではなく、「次に何をするか、先生に確認してみよう」
というように伝えます。
一度にたくさんのことを求めず、一つずつ具体的に伝えることがポイントです。
3.学校生活では、居心地のよい場所や過ごし方を見つける
学校生活では、授業中だけでなく、休み時間や行事などの自由な時間にも注意が必要です。
授業中は決められた活動に取り組めても、休み時間や遠足、修学旅行など、何をするかが自由に決まる場面では、どう振る舞えばよいかわからず困ってしまうことがあります。
友人との距離の取り方がわからなかったり、集団の中で自分の居場所を見つけられなかったりすることもあります。
そのため、学校では本人が居心地よく過ごせる場所や、人との関わり方を一緒に探していきましょう。
必ずしもクラスの中心になったり、多くの友人をつくったりする必要はありません。
一緒に過ごせる友人を一人見つける。
一人で落ち着いて過ごせる場所を確保する。
好きなことを共有できる仲間を見つける。
困ったときに相談できる先生を決めておく。
こうした小さな居場所があることが、学校生活を続ける支えになります。
4.不登校になっても、人とのつながりを絶やさない
学校に行けなくなった場合、無理に登校させることが必ずしもよいとは限りません。
しかし、不登校になったからといって、人との接触までなくなってしまうことには注意が必要です。
学校に行かなくても、家族以外の人と関わる機会をできるだけ保つことが大切です。
例えば、
定期的に医療機関を受診する。
スクールカウンセラーと話す。
フリースクールなどを利用する。
好きな活動を通じて、同じ趣味を持つ人と交流する。
短時間でも外出する習慣をつくる。
といった方法があります。
大切なのは、学校に戻ることだけを目標にしないことです。
学校に行けなくても、人とつながり、社会との接点を保つことはできます。
親以外の人とどのような距離を取り、どのように付き合っていくかを学ぶことも、成長にとって重要です。
家族だけで生活が完結し、他者との接点が長期間なくなることは避けたいところです。
不登校が続いている場合には、医療機関や相談機関などとのつながりを保ちましょう。必要な受診頻度は本人の状態に応じて決めます。
5.自分に合った仕事や生活の仕方を見つける
将来の仕事については、本人の得意なことや興味、苦手な環境などを踏まえて、自分に合ったものを探していくことが大切です。
ただし、最初から自分にぴったりの仕事を見つけることは難しいものです。実際に経験し、失敗したり、周囲に助けてもらったりしながら、自分に合う仕事や働き方を見つけていきます。
また、仕事の場面では、求められる役割に集中することも必要です。
例えば、仕事中は決められた業務に取り組み、仕事が終わった後に、趣味の仲間と好きな鉄道の話を楽しむというように、場面に応じて行動を切り替えることを学んでいきます。
これはTPO(時・場所・場合)をわきまえるということです。
好きなことに熱中するのは大切な長所ですが、いつ、どこで、どのように表現するかを考えることも、社会生活を送るうえで役立ちます。
親は、本人の興味や得意なことを大切にしながら、社会生活に必要なルールや習慣を少しずつ教えていきましょう。
6.家庭での生活習慣を具体的に整える
不登校や引きこもりの状態にある場合には、家庭での生活リズムを整えることが特に重要です。
例えば、次のような生活を目標にしてみましょう。
朝は決まった時間に起きる。
起床後はカーテンを開け、朝の光を浴びる。
朝食をとる。
日中はできるだけ身体を動かす。
朝や夕方に散歩やウォーキングをする。
夜は決まった時間に寝る。
例えば、朝7時に起きて夜23時に寝るという生活を一つの目標にすることもできます。ただし、年齢や必要な睡眠時間によっては、もっと早く寝る必要があります。
また、外出を嫌がる子どもであれば、最初から長時間の散歩を求める必要はありません。
朝、人目に触れることが苦手であれば、早朝の静かな時間に短時間だけ散歩することから始めてもよいでしょう。
大切なのは、最初から完璧な生活を求めず、できることから少しずつ取り組むことです。
保護者に伝えたいこと
発達特性のある子どもを育てるとき、親はどうしても、できないことや苦手なことを何とか改善させようと考えがちです。
しかし、本人の特性を無理に変えようとすることだけが支援ではありません。
睡眠や生活リズムを整える。社会生活に必要な基本的なマナーを教える。本人が安心して過ごせる場所をつくる。学校に行けなくても、人とのつながりを保つ。そして、自分に合った仕事や生き方を見つけられるように支える。
こうしたことの積み重ねが、将来の自立につながります。
目指すのは、周囲と同じ人間になることではありません。自分の個性を大切にしながら、他者と折り合いをつけ、自分なりの居場所を見つけて、この社会で生きていけるようになることです。
井原裕(いはらひろし)『「子どもの発達障害」薬はいらない』より要点をメモ
生活習慣(睡眠、生活リズム)の改善が一番
睡眠がとれないと心の余裕がとれず、不注意、衝動性、不安、パニック等の症状が目立ってしまう。小学校低学年は10時間以上 高学年は9時間以上 中学生は8時間 高校生は7時間 睡眠が必要。
朝起きる時間を一定にする。起きてから14~16時間後にメラトニンが分泌
日曜の朝に起きられないなら、なんでもいいから、子どもが行きたい場所に行く計画を立てて、楽しく早起きできるようにする。
自分の個性を大切にしながら、周囲と折り合いをつけて、この世界で生きていくこと。
最低限のマナーから覚える。
臨機応変な対応ができなくても、表面的に演じるにはまず挨拶から。
指示は一回に一つ。「メモをとれ」など具体的に助言。
自分に合った仕事がよいが、それも失敗しながら自分で見つけていくしかない。
仕事の時間は決められたことに集中し、仕事が終わってから趣味の仲間と鉄道の話をするなど。TPOをわきまえる。
学校でも、自分が居心地よいポジションを探す。休み時間や遠足、修学旅行など、自由な時が危険。
引きこもりにさせない。
不登校でもいいから、人との接触を絶やさない。
親以外の人間とどう距離をとるか、付き合っていくかを学ぶ。
対人関係0の時間を長くしない。
不登校であれば、毎週通院 朝7時起床、夜23時就寝
朝夕ウォーキング。朝人目に付きたくなければ早朝6時に散歩など。