神経発達症 診断

 症状は年齢とともに刻々と変化。適応行動をとれるかどうかが大切。置かれた環境、養育のあり方、適切な療育を受けたか等によって差が出てくる。

 二次的な情緒障害を予防することが重要。対人関係の失敗、いじめ、虐待やいじめを受けやすい。成長とともに様々な精神疾患を合併し得る。抑うつ傾向、苛々、気分変動(双極症に類似)、解離性の記憶障害、解離性幻覚や被害妄想(統合失調症に類似)。


  ASDとADHDは併存しやすい。幼児期はADHDの多動性/衝動性が見つかりやすく、しだいに多動性/衝動性が収まってくると、学童期以降は感覚過敏やコミュニケーションの問題が指摘されるようになる。

 ASDは発達性協調運動症も合併しやすい(全例ではない)。知的発達症を伴うASDにはてんかんが合併しやすい(幼児期発症だけでなく思春期以降の発症例も多い)。


知的発達症

 最重度(IQ20未満 療育手帳A1)、重度(IQ35未満 A2)、中等度(IQ50未満 B1)、軽度(IQ70未満 B2)におおよそ分けられる。

   IQ50の成人は約9歳の知的能力があり、周囲のサポートがあれば日常生活ができる。買い物の計算ができるか、明日、1週間後といった未来の計画を立てること等が一つの目安。ASDが合併すると能力のばらつきが大きくなる。中等度以上では、ほぼ全例で多少はASDの傾向を認める。



自閉スペクトラム症(ASD)

 注意を絞り込む機能(選択的注意)がうまく働かず、雑多な情報の中から必要な情報を絞り込めない(母親の声、指さす方向だけ気にする「共同注意」をおこなわない)。その結果、感覚刺激に対する過敏(あるいは鈍感)が生じ、情報ストレスを減らすためにB症状(こだわり行動)が繰り返され、情報の取捨選択が苦手なためにA症状(コミュニケーションの失敗)が生じる。

 A症状のみ(コミュニケーション能力は弱いが、明確なこだわり行動などが認められない)の場合は社会的コミュニケーション症(SCD)で、B症状のみ(こだわり行動等は認めるが、コミュニケーション能力は問題ない)の場合は常同運動症(SMD)であり、ASDと診断するためには、両方の特徴が必要。

 

 共同注意は、養育者のイメージを自身の中に取り込み、愛着形成につながっていくと同時に、他者の意図を読み取り、言語でコミュニケーションするための基盤となる。

 自閉スペクトラムの認知は、ものと一体化するようで、対象と距離がとれず、認知に慣れが生じにくい。全体の特徴より、細部に引きつけられ、こだわってしまう。



A:社会的コミュニケーション、対人的相互反応における欠陥(以下の3点)

対人的、情緒的な相互関係ができない(興味や感情を共有することが少ない。人と接する距離が普通と異なり、会話のやり取りが難しい等)

非言葉的コミュニケーションを用いることができない(表情が読めない、視線を合わせたり、身振りの使用と理解が難しい)

人間関係の発達、維持ができない(年齢、社会的状況に見合った行動ができない)


B:興味や活動が限定的で反復的(以下の2点以上)

常同的または反復的な行動、言動(おもちゃを一列に並べたり、単調に物を叩く、回す、オウム返し、独特な言い回し)

同一性、日常習慣へのこだわり、儀式的行動パターン(小さな変化が苦痛で急に変更できない、柔軟な思考に欠け、ルーチンの挨拶、同じ道順、同じ食べ物)

あるものに対して強く限定された興味(一般的ではない趣味への強い愛着、没頭)

感覚刺激に対する過敏(あるいは鈍感)(特定の音、光、温度、匂い、触感に反応ないし無反応、特定の動きを見ることに熱中、特定のものを過度に触れたり嗅いだりする等)


C:症状は発達早期に現れているが、後に明らかになる場合もある。

D:症状によって社会的困難が生じている。


対応の原則 

 ASDは他者の感情を読むのが苦手だが、自身の感情が欠落しているわけではない。認知の修正を図る前に、感情に働きかけ、気持ちのつながりを作ることが大切。その上で自己肯定感を育てる。一人一人特性が異なるため、病名をただ伝えるだけではなく、ASD特性をできるだけ肯定的に受け止め、特性を一つ一つ確認し理解を深めていく。

 感覚過敏に配慮し、情報量を減らす。1度に2つ以上の情報刺激を与えない。行うことを一つのラインにして、今すべきことを明確に(構造化)。表情、イントネーション、声の大きさを一定にして、具体的、短めに(「部屋ぺけ、お外」のように)、用いる言葉もなるべく同じパターンにする。身体的な接触を避け、物理的距離をとる。

 その人独自のこだわりを尊重する。こだわり、思い込みが激しい、他者の気持ちを想像しにくいといったことからトラブルになりやすい。上から叱ったりせず、善悪の判断を交えず、論理的に社会のルールを説明する。親にとっての正しい解決ではなく本人が満足いく解決を優先。困ったときに身近な人に相談できるようにする。



薬物療法(概ね6歳以上の易刺激性に対して)

    アリピプラゾール(6才以上) / 1日1回1mg以下を開始用量、増量は1回3mgまで。1日1〜15mgを維持用量。鎮静、体重増加に注意。

    リスペリドン(5才以上) /  体重15kg以上20kg未満では、 1日1回0.25mg以下より開始。1週間あけて0.25mgずつ増量。1mgを超えないこと。体重20kg以上 では、 1日1回0.5mgより開始。1週間あけて0.5mgずつ増量する。体重20kg以上45kg未満の場合は最大2.5mg、45kg以上の場合は3mgまで。子どもでは少量でも傾眠傾向が生じやすい。

不眠にはメラトニン作動薬か少量の抗精神病薬から。ベンゾジアゼピンは用いない。



注意欠陥多動症(ADHD)

 不眠で始まり、注意転導性が高まり、しだいに多動が目立ってくる。10歳頃から多動は減っていき、不注意が残存することが多い(成人ADHDの96%は不注意が優位)。

 理性より感情で動くため、状況を見通して行動を選択できない。待てない。かんしゃくを起こす。失敗を繰り返し周囲から否定され続け、自己肯定感を損ないやすい。


A1:不注意

細かい注意ができず、ケアレスミスをしやすい

注意を持続することが難しい(読書、授業などに集中できない)

話を聞いていないようにみえる(うわのそら)

指示に従えず、宿題などの課題をやり遂げられない(すぐ脱線、飽きる)

課題や活動を順序立ててできない(整理整頓、時間の管理、しめきりが苦手)

努力を続けなければいけない課題を避ける(長い文書に記入、見直すなど)

忘れ物、落とし物が多い(財布、携帯電話などを失くす)

刺激ですぐ気が散ってしまう

日々の活動を忘れがち(お使い、電話の折り返し、お金の支払い、会う約束)


A2:多動性/衝動性

着席中、手足をソワソワ

着席していないといけないのに離席

不適切な状況で走り回ったり、よじのぼったりする

静かに遊んだり、余暇を過ごすことができない

突き動かされるようにじっとしていられない(会議、レストランなど)

しゃべりすぎる

質問が終わらない内に出し抜けに答え始めてしまう

順番を待つのが苦手

人の邪魔をしたり、割り込んだりする


B, C, D:12歳までに、不注意症状、もしくは多動性/衝動性のどちらから一方もしくは両方が、6項目以上(17歳以上の場合は5項目)該当し、6か月以上持続している。複数の場面(家庭と学校など)で症状が存在。症状によって社会的困難が生じている。


対応の原則

 「一度叱ったら一度ほめる。特にトラブルを起こさなかったことをほめる」

 不注意を悪化させないように、周囲の刺激を減らす。明確で分かりやすい指示(手はお膝、おへそを前にして、両手で目の前に本を持たせる)。例えば、窓際では外の景色が気になるため、教師の前の席に移すだけで焦点がしぼれて授業に集中できることも。

 多動/衝動性によるパニックを感情的に叱らない。人が多いところでパニックになるなら、あらかじめどこへ行くか説明。パニックになってしまったら別室でクール・ダウン(自宅で手ごろな部屋がないなら、例えばミニテントを利用することもできる)。 

 とっさの行動を止めるときは無言でやさしく抱きしめる。言葉がけは短く。落ち着くまで待って、どうすればよかったのか教える。その時の本人の状態や気持ちについて話し合い、適切にヘルプを出せるように導く。


薬物療法

アトモキセチン(ATX),グアンファシン(GXR)、メチルフェニデート(MPH)を同列に。単剤が原則だが、併用も可。 2剤あるいは3剤無効例においてリスデキサンフェタミン(LDX)を検討。2剤以降無効なら薬物は中止も検討。

 情緒の歪み、チックの合併があれば中枢神経刺激薬(MPH、LDX)は用いない。純粋なADHDに用いる場合も、最小量程度を慎重に用い、週末や長期休暇には休薬。小学校高学年以降はテストや行事の時のみの頓服として中学で離脱が望ましい。

 どの薬も心血管への副作用があるため徐々に減らして成人前に離脱するのが理想。重度の知的発達の遅れや情緒の歪みが無く、健康な運動習慣もあれば、10歳前後から多動は収まってくることが多いため。

 アトモキセチン 18歳未満では0.5mg/kgから漸増して1.8mg/kgまで(おおよそ10mg分2から40mg分2)。吐き気、頭痛、眠気など副作用はSNRIと類似。

 グアンファシン 6歳以上で多動、衝動性に困るなら1mg夕から開始。体重を目安に最大6mg夕まで。鎮静作用、眠気、血圧低下に注意。


 ADHD症状の多くはASDの文脈からも説明できる。例えば、特定の対象に過集中し他は不注意であることは共通している。

 発達凸凹は注意のロック(固定)機能の障害。注意は「ロックする」「外す」の2つの動作でおこなう。ロックするのが難しいのがADHD的で、ロックしすぎて外すのが難しいのはASD的。両方の傾向が同時に存在しうる。ロックがかけられないと落ち着かず多動になる。ロックがかかったままだとこだわり行動が生じる。

 注意が持続しない。努力を避ける。話を聞いていないようにみえるのは状況が理解できない、興味がないからかもしれない(不注意)。 おしゃべりなのは一方的な談話かもしれず、出し抜けに答えるのは文脈を理解できないから。順番を待つのが苦手なのは社会的ルールを理解できないからかもしれない(多動性/衝動性)。



チック症 / トゥレット症

 目をパチパチする、顔をしかめる、首や肩を揺するといった運動チック、咳払い、鼻鳴らし、唸るといった単純な音声チックが多い。

 全身の激しい運動チックと激しい音声チックが一日中頻回に起こるものをトゥレット症とよぶ。80%に感覚過敏を認め、自閉スペクトラム症を合併しやすく、人との関りが苦手で不安焦燥が強い場合が多い。

 一時的、または部分的であれば自分の意思で抑制することもでき、経過中に頻度や強さが変動し、運動のおこる筋肉や発声の性質が変化することがある。

 心理的、身体的状態や場面により変動することがチックの診断の参考になる(家庭ではあるが学校では起こりにくい等)。舞踏病、ジストニア、ジスキネジア、ミオクローヌス等の不随意運動や常同行動、抜毛等の強迫症状と鑑別が必要。

 ムズムズするなどの前駆衝動があり、チックの発生に伴い軽快する。 「まさにぴったり」とか「痛い」といった感覚を得られるまで強迫的に繰り返す。

 自傷行為や器物破損など、わざとやっていると感じたり、周囲に感じられたりすると苦痛が増す(やってはいけないと思うとよけいにやってしまう)。  


チック症への対応の原則(心理教育および環境調整)

 脳の基盤があって起こっており、親の育て方や本人の性格が原因ではない。チックの変動や経過の特徴を理解し、些細な変化で一喜一憂しない。

 チックを本人の特徴として受容する。 チックのみに囚われず、長所も含めた本人全体を考える。チックや併存疾患があっても、本人が達成できそうな目標を立て、それに向かって努力することを勧める。

 チックがひどくなる状況があれば、その対応を試みる。同級生にも説明して、クラス全体で対応する。本人、家族と学校で認識を一致させる。「自分で完全にコントロールできないことに困りつつ頑張っている」ことは必ず伝える。


薬物療法  

第1選択はアリピプラゾール、次いでリスペリドン。グアンファシンはチックとADHDの併存に有効。中枢神経刺激薬はチックが増悪する可能性があり禁忌。



強迫症 

家族を巻き込む強迫行為。母親に確認しないと気が済まない。ASD、統合失調症に合併しやすい。治療にブロナンセリン2~4mg 、アナフラニール5㎎、セルトラリン12.5mg。


抜毛癖 緊張感が高まり、抜くと開放感や満足感を得る。

選択性緘黙 特定の社会状況(学校など)で話すことができない。


統合失調症 

こだわり、閉じこもり、生活の乱れなどから始まる。言語化できないため妄想ははっきりしない。こだわりや強迫によって症状の顕在化が抑えられている可能性。治療にブロナンセリン1~4mg 、アリピプラゾールやリスペリドン少量から。



限局性学習障症

 知的な遅れがないのに、読む、書く、計算が苦手。ASDと違って口頭の会話や対人関係は問題ない。10歳過ぎて脳の情報処理システムが発達し、問題が改善していくことが多い。


 同時に入力される情報を減らす。文字を大きく。行の間隔を開ける。一行ずつ見せる。漢字や図の構成要素に分解して説明。

 板書しなくてもいい選択肢を準備する(プリント配布、ビデオ、IT技術の活用など)。

 一度にたくさんのことを教えない。速さを求めない。苦手なことの「巻き添え」をくわせない。苦手なことを反復させない。恥をかかせない。

 「できたら褒めましょう」ではなく、結果より努力を褒めよう。努力より結果が重要だと子どもが勘違いしてしまう。それよりも大人は「挑戦と失敗が大好き」であるふりをするほうが無難である。子どもが取りかかり始めたら応援する。→できた時の報酬は本人の達成感、満足感で十分である。


夜尿症

 原因は様々で決まりきった対応はないが、原則は起こさない、怒らない、焦らない。親がきつく叱ったり、治療をあせると、夜尿に対する緊張や不安が高まり余計に長引く。夜中に起こしてトイレに連れて行っても寝ぼけまなこでおねしょしているのと同じ。

 トイレの習慣を見直す。定期的なトイレ誘導。夕食後、寝る前3時間は水分を摂らない。寝るとき体を冷やさないようにする。膀胱の機能を高めるために、例えば、昼間、学校から帰ってきて初めての排尿を一定時間がまんさせる。

 心因があったり(パンツを汚すことが何らかのメッセージや抗議である場合も)、神経発達症で身体感覚が乏しいため、起こっている場合もある。親子で体操をしたりして身体感覚をきたえる。夜尿が無かった時にカレンダーにシールを貼るといった行動療法(トークン・エコノミー)が有効な場合もある。

 夜尿という症状で家族が振り回される関係から、主体的に行動して、親子一緒に解決していく流れに変えていく。


夜驚症 

寝入って数時間してから突然起きて叫び出す。数分でまた寝て朝は覚えていない。3~6歳頃に始まり、多くは自然治癒する。長引く際はてんかんとの鑑別のための脳波。




診察のコツ

 神経発達症の診断は、詳細な家族への聞き取り、本人の診察、その経過を診断基準にあてはめて判断する(質問票を表面的、機械的に用いるのはまちがいの元)。

    5歳以下の幼児には、ゾウさんやウサギさんの絵を描いて渡して、緊張を和らげる。イメージ力/言語能力を測る。部分名詞(ゾウさんの鼻は?と聞かれ、指さすことができる)が分かれば、形容詞の理解に近いところまで発達している。

 着席できる幼児から小学校低学年には、「名前」「年齢」「通っている園」「なに組さんか」「担任の先生」「どんな先生か(大きい、小さい、若いか年寄りか、容姿、お母さんよりきれいか)」をたずね、こちらも自己紹介する。対人行動パターン、集中力、多動の有無をみる。主訴を、子ども、親双方に確認。

 子どもはバウムテスト、人物画(グッドイナフ)をおこなう。A4画用紙に1cmくらいの枠を描いて渡す。枠があるほうが内的な表出が容易になる。バウムテストのコツは「目の前の子どもが、描いた木の姿をしていると重ね合わせて見ること」。グッドイナフは、「仲の良いお友達、自分、目の前にいないといけないならお母さん。頭から足まで。棒人間はダメです。」という風に指示。発達年齢に加えて、友人関係、母子関係までうかがうことができる。


 その間に、同伴の大人から家族歴を聞く。両親の生い立ち、性格、精神科既往歴(気分の良い時と落ち込むときの落差がある。家事もできないくらい動けない等)、両親の関係(トラウマ、性被害、暴力含め)、それぞれの祖父母がどこに住んでいるか、どんな人で、いざという時頼れる人はいるか。

 家族樹は時間をかけて祖母の代まで正確に作り(問診表に書かれなかった新事実もあるかも)、大きな出来事があれば、それは本人が何歳の時か確認。保育園の時に母が長期入院、6歳の時両親が離婚といったように歴史年表を作る要領でできるだけ正確にたどる。

 それから本人の成育歴、現病歴を聞く。過敏性の有無が重要。家族史の中で、本人の状態の変遷を確認。同伴の大人の様子、本人の今後の発達の可能性を考慮しながら、今のところの見立てを告げる。必ずしも診断名を明確にする必要はなく、相手が欲している説明を、相手が理解できるように伝えていく。


療育 に続く